知佳、遅くなったけど誕生日おめでとう。
 デジタル時計に0が並んだ瞬間、俺は送信する。
 アニメーションが流れ、メールを送信しました。
 その文字にほっと一息つく。
 この日、初めて息をした。

「生まれ変わった気分だよ」
 そう口にして、自分が言葉通りに考えていないと分かる。
 何も変わらない。
 ただ日付が変わっただけ。
 ただ時が進んだだけ。

 携帯のディスプレイが光る。
 待ちうけにしていた知佳の笑顔が浮かぶ。
 届いたメール。
 祝ってほしいならそう言え。
 今日は6月9日だ。

 ふとスクロールバーの存在に気がついて下向きの参画が印刷されたボタンを連打する。
 押しっぱなしにすれば良いのに、何度も、何度も押す。
 続く空白。
 最後に現われたありがとうの文字。

「ありがとう」
 声に出して読んでみた。
 なんだかくすぐったかった。
「ありがとう」
 自分もそう送ろうと思い、またスクロールバーに気付く。
 押す。
 押す、おす、オス。

 生まれてきてくれて
「ありがとう」
 もう1度声に出してみた。
 俺の声は震えていた。

 息を吐く。
 息を吸う。
 落ち着いて空気を吐く。
 動機はまだ収まらない。
 浮かれたように指が踊る。

 押す。
 覚えてしまった知佳の番号を押す。
 アドレス帳を開くより早く押す。
 急ぎ過ぎてぶれる指に焦れながらも押す。
 音声通話。
 はい。
 コール音、コール音。

 プツッとキレたような音。
 電話がつながった瞬間の音。
「ありがとう」
 まずはもしもしだろうと溜め息を吐く知佳の声で。
 今日、初めて俺の耳は役に立った。

 
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