=スぺル=


 まるでただの友達同士のようだった。
 すれ違う人たちは俺達のことをそう思うに違いない。
 どこにでもある風景。
 いつでもあったはずの光景。

「チカちゃん…手」
 ほらよ、と差し出された左手。
 意外と大きいなとか指が節くれ立ってることだとか刀のせいであろうマメがあるだとか。
 何の変哲もないただの、手。
 知佳の手だ。
 合わせるようにして、指をからめた。
 くすぐったそうに知佳は笑って握る力を強める。

「俺達、友達同士に見えるかな」
「親友だろ」
「ちょっと甘すぎるけどね」
「手は繋がねえよな」
 悪戯をしているみたいに2人でくすくすと笑い合う。
 小さな幸せ。
 きっとこんな世界を夢見てた。
 あまりにも満たされていて、不安になった俺の口はくだらない言葉を紡ぎだす。

「この手でさ、人を殺したってのに」
 俺も、知佳も。
 あ、知佳はゾンビだから違うのかなっておかしくもないのに笑う。
「手を繋いで和気あいあいってお笑い草だよね」
「………」
「俺も殺してよ」
 この手で。

 痛いくらいに手を握られた。
 振りほどこうとしてもどうにもならない。
「汚いよ」
 その手が。
「だから離して」
 汚いんだってば。
「知佳が汚れちゃう」
 俺の手が。
「俺の、知佳が」

 ハナセと声がした。
 だけど繋がれた手は解けない。
 同じように人を斬った手なのに自分の手だけがとてつもなく汚れて見える。
 よくもまあそんな手で知佳に触れられたと呆れさえする。
「話せ、ちゃんと、オレと」

「ダチじゃねえのかよ」

 身体の左にある部位が万力で締め付けられるように痛みを帯びた。
 残酷な言葉を聞いて、認識した。
「ごめん、少しおかしかったみたい」
「別に良いけどよ」
 お友達。
 俺と知佳はダチで親友、ついでに今は敵同士。
 でも今は勝手に休戦中。
 日常ごっこに勤しんでます。
 そんな簡単なことを忘れてしまうほど俺の頭はどうかしている。

 友達は嫌なんだ。
 とても綺麗な言葉だよね、お友達でいましょうって。


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