=洒涙雨の日= なに怒ってんだよ、って言ってやりたくなるような降りっぷりの雨。 ゲリラ豪雨、だっけか? よく朝っぱらに思徒の部屋から聞こえるラジオだとか、食堂で点いてるニュースなんか で聞いた気がする。 いや、もう梅雨だから関係ねえのかな。 ともかく、雨足が強すぎてコンビニに客が来ない。 こりゃ七夕もお流れだわな、と信じてもいない神話を思い浮かべてみたりもする。 あれ神話か? 前に芝が延々と語っていたこともあった。 だなんて思い出しつつ、レジ前に並べられた七夕商品を眺めた。 なんでも星形にしちゃってさ、まあ乗る方もだし売る方もだけど日本人って適当だ。 商品が減ったわけでもないのに在庫のチェックに行ったバイトは戻って来ない。 雨が強すぎて有線の音がかき消される。 途切れ途切れに聞こえる音楽は、どことなくあの歌を思い出させた。 あのバカの歌うとち狂った歌。 曲名に星が入ってたのでそう思ったのかもしれない。 ドアの開く音がする。 こんな雨の日に物好きな人間ってのはいるもんだ。 ビニール傘でも買いに来たんかな。 朝から降ってたから無いか、それは。 「うーっす」 「うーっす」 ってあほか! 返答しちまったわ。 どんな客だって、ぐわぁっ!と姿を見てみると見知った奴が立っていた。 「なんでいる訳?」 「雨が降ってきたワケ」 あー、どうしよう、意味わかんねえよこいつ。 「…いらっしゃいませ」 「いらっしゃいました」 「商品はあちらでございます」 「俺のお目当てはこちらでございます」 逃げていいか。 良いよね、答えは聞いてないっ。 陳列に行こうとした首筋を掴まれる。 「全国的に逢瀬を楽しむ日だね」 チカちゃん、と背後から呟かれる。 背筋を伝うような声で言うな。 決めた、オレ逃げる。 在庫バイトを呼ぼうと開けた口がふさがれた。 チジョが居る。 違う、痴男がオレの背後にいる。 痴漢に遭った時ってきっとこんな気分だ。 「会いたかったよ、知佳」 「お前自分の立場わかってんのか」 「うん、愛してる」 「昨日も会っただろ」 酔ってるだろ、お前は。 <<