=アイルミッミー= 「あは、何それ」 ひょいと小梅の手からゲーム機を取り上げてまじまじとそれを眺める芝の眼前では、ド ット絵と化した親友とその相棒が居た。 返せと言う代わりに無言のまま足を踏みつけるという地味な嫌がらせをする小梅を押し のけて、勝手にゲームをリセット。 「ようはあれだよね、アドベンチャーゲーム」 まぁ仕組みも世界観も全然わかんないけどと誰に聞かれたわけでもないのに呟いて、名 前入力画面に移る。 「核心泥棒のくせに悪事を重ねるんですね」 「ゲームくらいで怒らないでよ」 主人公にチカというカタカナを選択して決定ボタンを押す。 おい…なんだよこれと出てくる文字は気にしない。 敵の名前とも相棒の名前とも出ずに思徒の名前をつけろと言われて芝はためらわずに自 分の苗字を入力した。 打ってからわかったのは仲間だということだけ。 「怒ってますねぇ」 「はは、イイ気味」 触覚がレトロな雰囲気を醸し出す画面の中でやけになめらかに動いている。 ぷいんぷいんとチープな効果音がたまらなくシトちゃんを演出していて笑うしかない。 「ありえねぇっ、まじうけるんですけど」 「あんた女子高生ですか」 「女子じゃないけど高校生だよ、一応」 まぁ通っちゃいないんだけどと律儀に捕捉しつつ指はボタンを連打する。 冒険の章が始まる。 「…せっこいマネしますね」 諦めたのかぼーっと画面を覗き込んでいた小梅が心底呆れたとばかりにため息すらオー バーリアクション付きでついてみせる。 「経験値は稼がして簡単に瀕死にするなんて何か恨みでもあるんですか”シバ”に」 「うん、あるよ。 驚くほどある。 俺の中に酷く蓄積されている。 この感情を言葉になんて出来ない」 「下手な作家の言い訳ですか。 言葉にするのが仕事だっつーの」 やけに具体的だけど恨みでもあるの?と聞こうとして功を奏す。 「あ、死んだ」 シバが死んだ。 道端に生えていた触手に巻きつけられて脱出不可能。 もちろん俺のやる気のなさが原因。 ピロピロリーンと安っぽい音を出して画面が暗くなる。 「ざまーみろ、なーんてね」 「…ゲームと会話するとは危険な人度高すぎですねーぇ」 カンと鳴るのは機械本体を落とした音だ。 壊れたらどうしてくれんだよと珍しく感情の起伏の現れた声音も何故か遠く聞こえる。 それどころではなかった。 そんなことどうでも良かった。 NEXT CONTINUE? こんなことでさえ俺は殺せない。 知佳はもちろんのこと、あの触覚でさえ。 急に寒くなった。 そういえば流されたとき、水っぽいので濡れてるんだっけか。 髪からいまだに水滴が滴り落ちる。 なんだかこれって頭痛が痛い、腹痛が痛い系? 「返して帰ってくださーぃ、この濡れ鼠が」 少し待ってとゲームをやり直し、ありったけのコインで知佳の武装、回復にあたる。 シトちゃんの名前は変えれそうになかった。 いつもそうだ。 半端に影響を残して俺は結局蚊帳の外。 「エンコーみたいだね、知佳」 貢ぐだけ貢いで満足したつもりになってその実、結局、何も―。 「私は”チカ”でも援助交際をするバカでもありません」 ゲーム機をひったくるようにわが身に収めて吐き出された言葉に苦笑するしかなかった。 <<