=延引アルビズム= 「…時季外れ」 「業者のまわし者」 吐く息が白い。 1日早ければクリスマスだったのにと芝は思った。 けれど口には出さなかった。 「だいたいお前キリスト教じゃないだろ」 「クリスマスまでバイトしなくても生きてけるでしょ」 久しぶりに雪が降った気がする。 ホワイトクリスマスって25日に降れば良いんだろうか。 知佳は少し気になったが博識な親友に尋ねようとは思わなかった。 クリスマスとは24日をさしているのではないだろうか。 「貯蓄してんだよ」 「お金は天下の回りものだよ? そうやってため込むから世界は不況になるんだ」 「オレ1人のせいで金融危機になるかってんだよ。 もーだまされねぇぞ金に関しては」 まるで口八丁で嘘をついてきたように言われて芝は少しさびしくなった。 自分の生き方に。 「自業自得だね」 漏れ出した言葉に知佳は首を傾げる。 チカちゃんは頭が空っぽだねとよく言われていたからその延長線上かと思って、隣を歩 いていた芝をようやくちらりと見て自分の考えを否定する。 「行事とか食品会社の陰謀だとか考えないで乗れば良いんだよ、楽しけりゃ」 それはもう目に余る光景だった。 いっそ吐き気がする。 カップルをやっかむ気はないがあまりの密度に知佳は目まいを覚えていた。 バイト先にはもっとたくさんの人間がばか騒ぎに来ていることだろう。 都心への通勤ラッシュ、盆休みの帰省ラッシュよろしく望んでもないのに人の流れに方 に歩いていた時、そいつは現れた。 「よぅ、チカちゃん」 まるで登校中に偶然会ったように、少し遠出をして見知った顔に会った時のように平然 と声をかけてくる男の服装はようやく季節が追い付いた感じだった。 「それ、寒くねぇの?」 訂正、少し薄着に見えた。 「クリスマスだね」 「イヴだろ」 「そうだね」 さも当然のように隣を歩く男は一向に道を違えようとしない。 「…バイトなんだけど」 「クリスマス商戦にのっかろうという魂胆か」 「時給上がんだもんよ」 「亡者だなぁ、まったく」 好きにいえば良い。 どうせいちゃいちゃする相手もいねぇよと言いかけて、立ち止まった。 つられて立ち止まった。 「どうせ知佳は明日もバイトなんだろうね」 「いいよ、言わなくて」 「なんとなくわかってるし」 「明後日、デートしよう」 「クリスマスデートだ」 冒頭に戻る。 出向いてしまった自分もだけど芝はどうかしてる。 何が楽しくて男とクリスマス1日後に遊んでいるのだろう。 「日本の東経覚えてる?」 「…バカにすんのもいい加減にしろよ」 135度と答えた。 さすがにそのくらい知っている。 「まだ世界のどこかではクリスマスだよ。 例えば1月6日までクリスマスのところだってある」 「ヘリクツだ」 「うん、そうだね」 「でも死神にもゾンビにもクリスマスだなんて眩しすぎるじゃないか」 「お前それを言うために呼んだろ」 「そうかもね」 ただ、イルミネーションや人々の笑顔が眩しくて日陰を歩きたかっただけなのかもしれ ないと芝はとっくに気づいていた。 「雪だぜ、積もれば良いのに」 「交通機関に影響が無い位ならね」 「はん、人ぶりやがってバーカ」 もし銀世界になったら、今度はどんな影を探せばいいのだろう。 <<