=言技=


「俺さ、きっと本当のことなんて言ったことが無いんだ」
「そっか」
「うん」
 気づかなかった。
 悲壮に浸りたい、そんな気分だっただけで。
 本当のことじゃなかった。
 本音を隠すようになったのは物心ついたころから。
 嘘ばっかり言い続ける人生なんて出来やしない。


「本気じゃなかったんだな」
 何が?と言いかけてすぐに気づいく。
「違う!」


「知佳のことは好き、愛してる。
 これは本当。
 全部嘘でもこれだけは嘘じゃない」
 焦る俺を見て知佳は繰り返した。
「そっか」と。


 知佳の好きなところ。
 俺をちゃんと見てくれるところ。
 いけないところはだめだって言ってくれる。
 思ったことは口に出してくれる。
 でも、自分の幸せに疎い、そんな所が悲しくて好きなんだ。


「傷…ついた?」
 俺が知佳のことを好きじゃなかったとして。
 あくまで仮説だし不変の嘘。
「いいや」
 首を小さく横に振り知佳は微笑んだ。
 いつもみたいに笑ってくれない。
 だからたたみかけるように聞いてしまう。
「なら信じてくれる?」って。


「あぁ、信じるさ、お前が真実だって言うなら」



 覆水盆に返らず。
 零れたミルクに泣いても仕方がないからって簡単に前は向けない。
「信じて」
 何回も言えば言うほど嘘くさくなっていくと知っているのに繰り返す。
 言わずにはいられない。


「怒ってよ、知佳のこと好きじゃないのかって」
 ヒステリックなまでに泣き叫んでくれた方がよっぽど良い。
 曖昧に笑みを向けられるより、ずっと。
「オレのこと、ちゃんと好きなんだろ?
 ならそれで良い、十分だ」


 俺が十分じゃない。
 もっと言わせて、馬鹿みたいに。
 壊れたレコードのように繰り返したいくらいなのに。
 きっとそれでも物足りない。


「俺ね…嘘つきなんだ」
「そうだな」
「だから信じないで、知佳が嫌だと思うことは」
 好きじゃないと思わないで。
 俺が知佳のことを好きだという事実を嫌わないのなら。


「俺はお前を信じるさ、ダチだからな」
「…恋人って言ってほしいな」
 愛情を向けられることにひどく鈍感な君は、いつもの明るい笑顔を浮かべようとして、
 苦しそうに笑うのだった。


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