=彼の人の名はウエンディ=


 日曜日が来る。
 今回もまた違った。
 はがきの裏に書かれた住所が、だ。
 当り前と言えばそれまでなのかもしれない。
 それは転居先を記したものなのだから。


 〜方芝怜一朗。
 2月か3月に1回くらいくるそれ。
 今回はいつにもまして短かった。
 ちょうど1週間だ。
 見飽きた文字の前は記憶に残らない。
 あぁ、まだ生きているのだなと確認するだけ。



 久しぶりにはがきを出そうと思う。
 年賀状以来だから10ヵ月ぶり。
 そういやまた2ヵ月後位に追われるのだろう。
 計画性のないオレはあいつみたいに1日に到着させることが出来ない。


 転がりこまれた部屋の主についてふと考えた。
 名字しか知らないその人のことを。
 知らない名字を書きながら。


 女だろう。
 きっと年上、キャリアウーマンとかそんな感じ。
 んできっと美人。
 あいつ意外と面食いだし。


 金曜の晩に泊って土曜に住み着くと決める。
 その日のうちにはがきを出して日曜にオレのところに到着。
 そんなところだと思う。
 あいつの行動パターン。


 表に何をかこうか迷った。
 なので芝の真似をした。
 筆ペンをみちるに借りにいく。
 何に使うのかと聞かれて、引っ越しましたって書くんだよと言ったら黙ってしまった。
 学園の利益にならなくなってからもなぜだか追い出されなかった黒羽寮。
 それでも、卒業するのだからもういられない。
 シトもみちるも引っ越さないと言っていた。
 卒業式の日は帰ってくっからとみちるの頭を撫でて、部屋に帰った。



 転居届。



 この3文字を紙の真ん中に書く。
 返済が終わってからも続けたバイトのおかげで4年分の家賃くらいはおそらく貯まった。
 明日、オレは引っ越す。
 これから先のことは何も考えていない。
 大学が少し実家から遠いから部屋を借りる、それだけだ。
 きっと、適当に大学に行ってバイトして毎日それなりに楽しくやっていくんだろう。






 木曜日。
 思ったより部屋が広くて少し得をした気がした。
 でも段ボールの中のものを出せば寮と変わらなくなるだろう。
 1DKだけど、部屋を使う気にはなれない。






 金曜日。
 バイトの面接に行く。
 たぶんいける、勘。
 そのまま辺りを適当に散策して日が暮れるころに帰った。
 ドアの前に人が居た。



 


 日曜日が来た。
 はがきはやって来ない。
 当り前だ。
 送り主はここにいるのだから。


 <<