=I don't care=


 あんたが誰だってかまわない。
 それが殺し文句になることを分かって言ってる。
 けれど本当に興味がない。
 これを世間一般では失恋したことによるショックだなんて形容してしまうのかな?
 俺を欲しがるその人だけに意味があった夜。



 明けてやはり後悔した。
 自分がこれほど馬鹿だなんて思わなかった。
 知佳に彼女ができた。
 悲しくなって身体を売った。
 以上。
 文句のつけようがないほどくだらない。
 
 

 テーブルに置かれた札束(脚色気味)とメモ。
 もう恋人気取りなのだろうか。
 3時半に校門に迎えに行くと書かれたメモの横には生徒証が置かれていた。
 身元はいともたやすくわれてしまった。
 ほんと、昨日の俺はどうかしていて今日も俺はどうかしている。
 よりにもよって男だなんて。
 女の方が好きだってのに。
 


 興味は無いけれど一応、生徒証に挟まれてあった名刺を財布に入れた。 
 携帯の着信を確認する。
 何もない。
 それは俺の存在までもないように見せた。
 この名刺とメモだけが今日の俺を模る。
 金で思い通りになる人間が一番嫌いなのに。
 俺は着実にそれに近づいていた。






「これからチカちゃんと帰れないんだね」
 偶然の様な必然で落ち合った屋上で知佳に言う。
「寂しい?」
「まぁね」
 んだよーと照れたような顔。
「ま、俺も今日は用あるし」
 というか迎えに来るらしい。
「そっか」
「うん」



 知佳は俺の言葉を疑いやしないのだろう。
 ぎりぎり嘘じゃないから疑われても困るのだけれども全身からお前を信じてるぜオーラ
 が滲みだしている。
 言葉には決して出さないけど知佳はまっすぐで正論を当たり前のように貫き通して懐に
 入れた人間を放ってはおけないのだ。
 もしも昨日のことがばれたらどうなるのか少し気になった。
 怒られるだろうなと思った。



 3時過ぎに終わった授業。
 彼女と並んで帰る知佳を俺は屋上から見つめていた。
 視線で人が殺せるのならば俺は間違いなく今、そのスキルを手に入れているだろうし、
 呪えるものならば何をかけてでも殺したい。
 要は彼女を殺したかった。
 笑顔の知佳でさえも憎らしい。
 嗚呼本末転倒。



 下品では無い白い車が校門の横につく。
 その車から降りた男はスーツで身を固めた昨日の男だった。
 鞄を持って急いで階段を降りる。
「待った?」
 社交辞令のようにその言葉を口に出すと男は小さく首を横に振りドアを開けた。
 少し離れた所から俺達を見つめる生徒に男は「怜一朗がいつもお世話になっています」
 と人の良さそうな笑顔で言って運転席につく。
「ごめんね、兄さん」
 そのつもりなら俺も従おう。
 精一杯年の離れた兄弟を演じながら乗り込んだ。



 車が滑るように動き出す。
 少し前に知佳が見えた。
 すれ違う。
 知らず息が止まっていて、大きく息を吸った。
 知佳は笑いながら彼女としゃべっていた。



 ばれるまであとどのくらいの時間があるのかな。
 でも、もう少しこのままでいさせて。
 いらない感情を消す時間が欲しい。
 まだこの世界は崩れない。


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