=与奪の先=


「誕生日?」
「―ッス」
 少し考え込むようにうつむいた芝は一瞬して溜息を吐いた。
「そんなの知ったってしょうがないじゃん」
 しょうがないという言葉に過剰に反応する修司の頭を、芝は泣きそうな子供をあやすか
 のようにポンポンと撫でる。
「子供扱いしないでくださいよ」
「だって俺の方が大人だもん」
「背だってそんな変わんないっしょ」
「1cmでも差は差だからね」
 ゾンビも死神も成長はしない。
「まだ成長期っすから伸びますよ」
 望んでゾンビになったくせに(理由はどうあれ知ったことじゃない)、修司はくだらな
 いことを言う。
 

「だいたい…なんで付きまとうの?」
 ストーカー?
 その言葉にも気分を害することなく修司の瞳はまっすぐ芝を射抜いた。
 一歩、後ずさる。
「だって、オレ嫌っすもん」
「何が」
「普通が」
 あぁ、俺に似ている。


「なにそれ、俺って何よ」
「オレに理由を作ってくれる人…っすかね」
「せめて好きだとか言いなよ」
 飾らない言葉に行動力。
 俺が生きるためにできなかった努力をしている人間を、いや語弊だ、ゾンビは酷く疎ま
 しく、後ろに懐かしい輝きを見た。


 生きることに絶望を見出した理由は2つ。
 一定の期間を過ぎれば後は朽ちるだけの肉体。
 希望を見出せない精神。
 死神になって前者は改定されたのに。
 俺は何に絶望している?
 知佳になれないこと?


 それを察したかのように修司は畳掛ける。
「オレ、あんたにならなんでもあげられんのに」
「そんな安売りはごめんだよ。俺はもっと特別な物が欲しい」
「だから誕生日、いつっすか」
 …なんでそこに戻るのかな。
 また繰り返すのかもしれない会話をざっと思い描いてまた溜息を吐いた。
「溜息吐いたって何も変わらないんすよ」
「そりゃね、そうだけどさ」


「っで、いつっすか」
「今日だよ、今日が6月9日なら」
 少し驚いたそぶりを見せた修司は、気を取り直したのか口を開いた。
「あんたのためなら命だってあげれるし…ってか実際やったことあるし。
 愛だってあげれる。なのになんで赤月センパイにばっかりこだわるんすか」


「搾取することにしか喜びを見つけられないから、かな」
「それ、オレとお似合いだと思いますよ」
 与えることに安堵を感じ、価値を見出すから。
「だろうね」


 俺達は遠いところを見つめている。
 かみ合っているはずの会話は確かにここで交差しているのにも関わらず、各々無秩序に
 宙へと飛び出していった。
 少し、甘えたい気分だった。


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