=手紙= 今日は人を8人ゾンビにしました。 殺したんじゃない。 ゾンビにしたんだ。 不老不死だよ、ゾンビって。 それを殺してんのは知佳じゃんか。 書いた文字たちに大きく×を打ってゴミ箱に投げ込んだ。 狙いは外れて紙は床に落ちる。 今日は知佳が登校した時に3限が終わってたよね。 知佳にとっては予定通りだろうけど俺笑っちゃったよ。 意外と家庭科好きなのが変わって無くて。 4限の家庭科は楽しそうだったね。 鰺を三枚にした知佳の顔イキイキしてた。 死んでるの嘘みたい。 そのあとはずっと寝てたけどどんな夢見たの? 俺に会った? 本当は現実で会えたらいいんだけどなぁ。 今回も待ち合わせの時間書くけど、どうせ来てくれないんだよね。 俺はちゃんと待ってるから気が向いたら来てね。 そういえばもうすぐ知佳の誕生日だね。 ちょっと早いけどおめでとう。 一番に言いたかったんだ。 語弊とか気にしちゃダメだよ。 …語弊の意味わかる? 言葉のあやって言えばわかるかな? 分らないことはちゃんと辞書で引かなきゃだめだからね。 そうだ、誕生日。 プレゼント何が良い? 現金っていっても聞かないからね。 毎年言ってたじゃん、モノより金って。 そんなの寂しいから具体的に言って。 なんなら一緒に買いに行こう。 だったら要るものあげれるし。 じゃぁね。 最後に書かれた書いた日の日付と待ち合わせの日時。 明後日の夜だった。 溜息ひとつついてオレは手紙を置いた。 芝から手紙が来るようになって少し経つ。 最低でも一週間に一回、寮の部屋の扉に挟まれている。 寮生はもちろん黒羽学園の生徒ばかりだから昼は無人。 手紙を置いていくこと位たやすいだろう。 問題はそこじゃない。 「生きてるってことだよなぁ…」 その上、監視のようなことをされてるらしい。 振り返れば外の墓地に居るのかもしれない。 けどしない。 居なかったときにへこむからじゃない。 少し、怖い。 これは芝を亡くした寂しさから自分で書いてるんじゃないか、とか。 (自分の筆跡には見えないけど芝の筆跡を覚えてるわけじゃない) 事情を知ってる誰かの罠なんじゃないか、とか。 (あぁ、実際にすんごいダメージだ) 生きてたらどうすんだ、とか。 もう出発しなきゃ間に合わない。 そんな時間を時計はさす。 また布団にもぐりこんで秒針に震えてる。 なんかの病気みたいに。 「どうしろって言うんだよ」 行けばいい。 行かないのなら行かなければいい。 どっちかを選べば良いのに。 老朽化の進んだ廊下がみしみし音を立てる。 オレの部屋の前で足音は止まった。 かさっと紙が折れる音がする。 きっと扉に手紙を挟んだ音だ。 確かめる気にはなれなくて布団を握りしめる。 「俺のことだけ考えてほしいなぁ…なんて、ね」 <<