何が違う。 己の上で荒い息を吐く思徒を見て思う。 この行為も決して生をつなぐためでは無い。 だからこそ人間として勤勉な働きをしているとは言えない。 むしろ怠惰という言葉こそが相応しい。 それは自分にも言えたことだと芝は笑う。 「笑うな、気色悪い」 上から降ってくる音は非難するものではあっても拒否する声では無い。 何をしてもこの男は全身全霊で人を拒むことはないと確信している。 「ごめんってば」 機嫌を損ねて出ていってしまった思徒自身が恋しいと収縮を繰り返す秘所の代わりに言葉にしてみた。 言いながらも頭の中では別のことを考えている。 生きること。 死神だなんてこの状況が生きていることにつながるのかはわからない。 ただ、思考能力は生きている。 思考することを生きていることと定義するのならば自分は生きてると芝は考える。 ゾンビである目の前の男もだ。 「だからさ、やめないでよ」 そっと思徒自身を撫でると白濁の液で湿っていた。 どくり、と脈をうつ。 「俺がいれるから…ね?」 芝は委員長から聞いたことがあった。 橘思徒は中国系マフィア徐福の創った生粋のゾンビである、と。 それを聞いてから数日観察してみると黒塗りの車が黒羽寮につけられた。 車から降りてきたのは3人の男。 背広にサングラス。 うち2人は見るからにいかつい。 もう1人は冗談のように細い眼をこじ開けて芝の方を振り返った。 両者の目が、あった。 思徒のあとをつけたこともあった。 廃屋に入って2時間ほどしてでてきた。 先日の男を連れて。 鬱陶しがる思徒に嬉々として纏わりつく男。 なぜか芝の中では親友とみちると共に歩く姿がだぶる。 「あ、そっか」 「今度は何だ」 怪訝そうに眉間にしわを寄せた思徒に芝は答える。 「俺と思徒の違い」 「似ているとでも思ってたのか、死ね」 死ね、と口癖のように口に出しても本気では無いのだと芝は思う。 どれだけ鬱陶しがっても自分に寄ってくる相手を蹴散らそうとはしない。 その労力さえ惜しみため息に代える。 芝は1人だった。