コツコツ。 靴音が部屋中に響き渡る。 とはいえそこは部屋と呼ぶには壁がない。 ぽつりと、そこだけ隔離されたように浮かび上がっている。 「ねぇ、千年さん」 穏やかで、どこか裏のありそうな声音で芝は語りかける。 「似てない」 一言だけ紫煙と共に吐き出した千年は上半身だけ振り返ると嫌そうに後ろに立つ男を見る。 コツコツ。 速度を一切変えず、芝は歩く。 「用か?」 興味はそれたのか聞きながらも視線は元に戻っている。 「うん」 答えながらもまっすぐ千年の方に向かう。 「近い」 「うん」 千年の腰かけるその前に中世の騎士のように座り込んだ。 椅子の背にかかる掌を持ち上げて口づけを落とす。 「なっ…何してんだよっ」 芝からの返事は無く、そのまま小指から順に舌を這わせ始めた。 両手を使って振り払おうとするがびくともしない。 次第に舐めることに飽きてきたのか口内に指を含ませる。 見ていられなくなって千年は強く眼を閉じた。 ぴちゃり。 そんな音が手元から聞こえてくる。 なぜこんな状態に自分が置かれているのか考える。 理由は全く思い当たらない。 千年が別のことを考え始めたからであろう。 腕を抑えていた手を外して芝は椅子の向こうに伸ばす。 「芝っ」 驚いて見開かれた眼をじっと見つめながら芝は笑った。 気だるげに、艶っぽく。 「こっちも舐めてあげよっか?」 こっちと言いながら手は服の上から千年の股間をそっと押した。 「俺けっこー上手いって言われてんだよ」 指を下から上へすっと撫で上げる。 「やめろ」 「あ、そう」 すくっと立ち上がり何も無かったかのように芝は背を向ける。 コツコツ。 音が遠ざかる。