それは執念に似ていた。
 それは絶望に似ていた。
 それは嫉妬に似ていた。



 あれから50数年が経った。
 時代は、この国は、変わった。
 あらゆる技術が信じられない早さで組みあがった。
 外に出るたびに街並みが様変わりしていた。
 このビルディング、いや、ビルもそうだ。
 それでもなお、普通人と僕たちの確執はなくならない。
 近年、リミッターだなんて道具が出来たみたいだ。
 けれど、いくら能力を抑えても普通人は能力者を異能と恐れる。
 仮初めの友情や愛情が流れる陳腐な景色をヘリポートから眺めていた。

「変わらないものだ」
 それでも、人間は。
 いかに技術や知識を手に入れようと根本的なことは何一つ変わっちゃいない。
 それとも根深い探究心が引き起こすのだろうか。
 知らないこと、分からないことは怖いこと。

 あの人間だってそうだったじゃないか。
 自分の気付かぬ間に隣に立っていると驚いた。
 常識だとか固定観念に囚われたままだ。
 君だってそうだろう、皆本光一。

 ふと視た彼の思考は、強度7に及ぶ女王達を恐れるのもやむを得ないと考えていた。
 まるで自分はそうではないかのように。
 ただの仲間として、困った子供として扱っていた。
 自分がエスパーの味方だと信じ込んでいた。
 そして、未来を知ってもなお、彼はまっすぐ標的を見定めていたのであった。

 僕は、彼が気を緩めた瞬間、引き金を引いた。
 それはまさしく幕開けだったと今になって思う。
 はじめて見る彼とその思考。
 異常だとしか言いようがなかった。
 甘すぎるほどに正しいことばかりが流れ込んでくる。
 新しい精神能力なのではないかと思うほどにおかしなものが僕の中に渦巻く。

 君はあの未来に立ち会いたくないのだろう?
 なのに、銃を手にしている。
 矛盾している。
 人間は矛盾だらけだ。
 笑顔で立ちまわって、撃つんだろう、



 僕を―



 
 額が痛んだ気がした。
 訴えたい何かがあるのか。
 残念ながら傷の思考を読めない僕は、皆本を挑発する言葉を浴びせかける。
 大勢の人が死ぬのは嫌だろう。
 犠牲は少ないに越したことはない、違うのか。

 それでも彼は、未知の彼女らを裏切らないと言いきった。
 その姿はなぜだか女王達を思い起こさせた。
 この男に君たちは騙されているんだ。
 彼に自覚がなくてもいつかは裏切られる。

 目の前の男が激昂している。
 本当は知っているくせに。
 B.A.B.E.L.に勤めている以上は。
 僕らとノーマルは、決して手を繋いでいるわけではない。
 抑圧されているだけだ。
 あんな未来の予知すら出ている。
 エスパーはこの状況を認めてはいない。
 しかも伊号のじーさんの予知だ、彼には嘯いてみたものの実現する確率は高いだろう。

 それに僕も未来を作る担い手になる。
 女王達とあの子供たちとエスパーの世界を創るのだ。 
 結局、彼はいつかどこかで僕らに銃を向ける。
 あの人のように、撃つ。

 だから信じない。
 彼の存在は認めない。
 この気持ちは言葉に出して、吐き出してしまえる代物ではない。



 それは執念に似ていた。
 それは絶望に似ていた。
 彼はあの人に似ていて―
 そして嫉妬に似ていた。


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