「…これ見よがしだな」
「公僕のキミは休日を軽んじるべきではないと思うぜ」
 僕は今日、ごく当然のように皆本の前に姿を現した。
 久方ぶりの帰国だ。

 夕飯の材料であろう袋を両手にぶら下げ、鼻歌交じりに歩く姿はまさに主夫だった。
 ただ少し、量が少なかった。
 4人分には到底足りない、せいぜい2人というところか。
「女王達は?」
「おまえに教える必要はない」
 珍しく彼はブラスターをこちらにむけてこない。

 女王にむけるはずのそれを僕に撃てば何かが変わると思っているはずなのに。
 …とうの彼女たちはもっぱら、連休に里帰りというところだろう。
 けれど、犯罪は、物事は連休なんかで止まったりはしない。
 人が増えれば悪意もまた沸き起こる。
 普通の生活をこよなく愛す彼だからこそ、彼女たちだけはとバベルから離したのだろう。
 よく見れば、顔にあざがみえる。
 また子供は家に帰れだなんてデリカシーにかけたことを言ったのだろう。
 だなんて、視ればわかることをつらつらと想像した。

「シルバーウィークという言葉を僕はここ最近、初めて耳にしたよ」
「今年からだからな」
「今日は撃たないんだね」
 いつも僕が発砲しているみたいに言うなと彼は怒った。
「敬老の日、だからね」
「あれはもう過ぎたんじゃなかったかな」
「6年ほど前から月曜日になったんだよ」
 まあ知らないかと、皆本は溜め息をついた。
 なんだか少し腹が立つ。

 年寄りだとバカにされた気がする。
 仕方がないだろう、そんなことを考えている余裕なんか―。
「ならば敬ってもらおうじゃないか」
「…年寄り扱いしてほしいのか?」
 突然の僕の方向転換に彼はほんの一瞬、言葉を失った。

「おじいちゃんだなんて呼んだら怒るけどね」
「勝手だ」
「長寿をあがめる日に僕の生き方に指図するのはいただけないな」
 さて、どうしたものか。
 敬うってったって抽象的すぎるとは思う。
 祝ってほしいのか。
 それもまた違う気がする。

 考えた。
 敬老の日にこじつけて何を搾取してやろうかと。
 楽しい。
 実に愉快な普通人だ。
 個人的には気に入っていたのによくもまあ一年以上も彼に会わずに居れたものだ。

「なあ…ちゃんと食べてるか?」
「何を?」
 急に話しかけられて、そのうえ彼にしては脈絡のない口調に疑問形で返す。
「海外に居るそうじゃないか、その…日本食が恋しくなったりは、しないか」
「それは食事のお誘いかな?」
「ちが…そんなんじゃなくて」
 ただ、材料を買いすぎたんだと彼は呟いた。
 そうだね、久方ぶりに頂こうかと答えると不思議そうに首を傾げた。
 彼のシチューはなかなかのものだったのに。
 そして僕たちは帰路に着くのだった。


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