「好きだって、言ってるぜ、皆本」
「…そんな、こと」

 息が漏れて、言葉が途切れる。
 上下運動は止まない。
 賢木さんと細切れに何度も呼びかけられる。
 言い聞かせるように、正気に戻るように。

 本当は視ていないんだ。
 なのにESPを使ったようにして意地悪く言ってみせる。
 俺が好きなんだろ?
 だから感じちゃってるんだろ?
 男なのにな。
 俺に犯されて満足か?

 これは予防線。
 信じたくて、信じられなくて。
 恥ずかしそうに皆本は身をよじる。
 …なあ、感じてるんだよな。
 俺のこと、好きなんだよな。

「言葉に出しちまえよ」
 お願いだから―。
 こうして無理やりとはいえ身を委ねてくれているだけで幸福をかみしめれば良いのに。
 ずっと生きてきて、そりゃ人から見れば大した時間じゃなくても20数年は俺の全てで。
 皆本に会えたのは人生のパーセンテージの中でとても、少ない。
 ノーマルのくせに触れてくる。
 ノーマルのくせに平気で笑いかけてくる。
 悔しくなって、皆本自身を握りしめた。
 うめき声が遠くで聞こえる。

 きっと思念は流れ込んできているのだろう。
 説教だとか、罵詈雑言だとか、それでも愛のこもった気持ち…だとか。
 分かっている。
 皆本だから、俺を見捨てたりはしない。
 俺じゃなくても、皆本は見捨てない。
 分かってるんだ。
 なのに、リミッターを外せない。

 皆本は気付いているのだろうか。
 手首には付けていないものの足首に巻いていることを。
 ズボンを脱がないことを。
 卑猥な言葉を浴びせかけて強がっているだけの俺を。



「皆本」



 ごめん。
 そんな言葉は口に出せないままだけれど。
 伝わってくれ。
 伝えてくれ。
「感じてるんだろ?」
 数ヶ所から流れ出す液状のものを掬い上げては塗りこめる。
 優しい言葉は吐けない。

 お前がエスパーなら、きっと良かったのに。
 この気持ちを俺より理解できるだろうに。
 ノーマルなのに頭の出来が良すぎて孤立した、良い人すぎる皆本。
 エスパーだという理由だけで孤立を選んだ、弱すぎる俺。
 傷を舐めあう相手が欲しかったのかもしれない。
 わかってくれる人間が欲しかったのかもしれない。
 何が欲しいのかは分からない。

 俗に強姦と呼ばれるであろう好意をしながらつらつらと考え続けた。
 俺のことが好きなんだろうと因縁をつけて襲いかかった。
 拒否はされた。
 嫌というほど恐れおののいている思念が流れ込んできた。
 それでも皆本は、逃げなかった。
 こんな俺を包むようにして、苦しそうに笑って見せる。

 その瞳には、何かに追われているような顔をした男が映っていた。 


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