=蛋白質な涙=


 ただ神に祈っているだけじゃないか。
 祈るだけを行動と呼べようか。
 神だとか仏とかそんな類は結局は多神教の国に住む僕には実感として分からない。
 けれども祈るしかなかった。


「支葵」
 神の名を呼ぶ。
 僕はただ答えを待っている。
 救いのワードは「一条さん」。
 それが彼の口からもう一度零れることを望んでいる。
 流れ続けることを願っている。


 最近すっかり涙もろくなってしまった。
 ねぇ、声が震えているよ、僕。
 毎夕訪れる期待と、ことごとく打ち砕かれる希望を司る儀。
 分かっていても繰り返すしかないルーチンワーク。
 今日もきっとだめなんだよね、知ってるよ、知ってるだろ。
 万全の態勢で臨む。
 こんなこと言い聞かさなければ動かない身体は十分怯えているのだけれども。


 吸血鬼の本能が僕に跪けと言い話す。
 一条の血が僕から抗う爪を剥ぎ牙を抜く。
 一条拓麻という存在のなんと無力なことか。
 いや、僕だからこそ支葵を見捨てきれずにこんなはめになっているのか。
 嗚呼憂鬱。


「ねぇ、支葵起きて」
 これは呪文だ。
 効果は今のところ1度きり。
 お願いだから答えて。
 僕の声が君に届きますように。


「おはよう、拓麻」
 最近涙もろくなった。
「良い寝覚めだよ」
 支葵の指に救われた涙はそのまま口元に塗られる。
 少し塩気のある液体は唇の間から流れ込んで胸を痛くさせる。


「泣き顔は好きだよ…拓麻」
 その声で、その身体で、その言葉を言わないで。
 なおも溢れ出す涙を李土はうっとりと眺めた。


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