=一人路=


「…好き」
「そんなに僕の血おいしい?」
 わざとなんだと思う。
 目が笑えてない。
「好き」
 言葉は意味をくみ取ってもらえなきゃただのノイズだ。
 さながらオレはノイズ発生装置。






 初めての日もそうだった。
 愛してるから吸うんだと言っていた母さんの言葉を思い出していた。
 一条さんを目の前にして。
「血…ちょうだい」
 好きだから。
「校則、守らなきゃ。
 枢に怒られちゃうよ」
 ウインクを1つ飛ばされても誤魔化されやしない。


「それでも欲しい」
 何かの冗談だと思ってたのかもしれない。
 タブレットが口にあわないって言ったのを覚えていてくれたのかもしれないし、気まぐ
 れだと思われたのかもしれない。
 普段より明らかに回る口が続ける。
「一条さんが好き、だから」


 あの時の顔ったらなかった。
 いつも薄い笑みを湛えている頬が固く強張って時が止まる。
 時間にすればそれは一秒も無かったのかもしれない。
 永遠だったのかもしれない。
 時計を見てたわけじゃないから分からなかったけど、確かに一条さんの顔色が変わった。
「僕も好きだよ。と―」
「一条さんとの友情なんていらない」
 遮るようにオレは叫んでいた。
 腹が立っていた。


 嫌いならそう言ってよ。
 気持ち悪いとかオレだって思うし。
 嫌なら言ってくれればいいじゃん。
 これはオレの勝手な気持ちなんだから。
 …家庭環境が普通じゃなかったからかもしれないけど。


「喉が渇いたならそう言って、ね?」
 違う違う違う。
 そうじゃない、わかってるくせに、貴方は逃げる。
「好き」
「やっぱりタブレットじゃ味気ないもんね」
「違う!一条さんが良い」
「そんなに僕の血は美味しそう?」


「好きだから血が欲しい」
 降参、と一条さんは両手を軽く挙げた。
「いいよ、あげる」







 こうしてオレ達の、オレの一方的な関係は続いている。
 決して結ばれたわけじゃない。
 知っている。
 貴方が学園の平穏のためにこんなことを許すのだと。


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