=教えてくれる=


「…一条さん」
「なに?」
「あのさ…」
 部屋を埋め尽くす本。
 漫画、本、漫画―。
「部屋、片付けなよ」
 うっかり拾った本が男同志が抱き合ってる本でぞっとした。


「片付けるの苦手なんだ」
「捨てなよ」 
「それも苦手」
 ああ言えばこう言う一条さんにゆっくり近づく。
 たった数メートルの距離を散らばっている物をよけながら進むのは大変だ。

 
「BLって凄いよね」
 やっとベッドに腰かけたオレに一条さんは言う。
 そんなこと、オレに聞かないでほしい。
「………」
 BLがボーイズラブ、つまり男同志の恋愛を取り扱ったジャンルだってことは前に聞いた。
「支葵は見ないからこんなこと言われても困っちゃうかな?」
 困る。


 二度目の沈黙を肯定と取った一条さんは笑った。 
「なんだろ、ファンタジー?
 御伽噺すぎてなんだかおもしろいんだ」
「…一条さんは体験とかしてみたいの?」
「男との恋愛?」
 首肯。
「ちょっと遠慮したいかな。
 するなら普通の女の子と―」
 

 首元に噛みつく。
「ちょっと支葵、首はだめだって」
 痕が見えると言って一条さんは嫌う。
「消せばいい」
 けた外れの治癒能力があるんだから。


「タブレットだってあるでしょ」
「あれ嫌い」
 お約束の様な受け答え。
 結局はこうして吸血行為を許してくれる。


「貧血になっちゃったらどうするんだい?」
「そんなことしない」
「その時は支葵の血、ちょうだいね」
 交換だよ。
 必然的に耳元でささやかれた声に震えた。
「…ならないから大丈夫」
「わかんないよ?
 もしかしたら起こるかもしれない」
「しない」


 吸わせない。
 オレの気持ちなんて伝わらない方がいいんだから。


 <<