=餌付け=


 疲れた。
 元老院からの指令で元人間退治に駆り出された身体が痛む。
 ああいう肉体労働は得意じゃない。
 特に、オレは血を使うから。
「一条さん…」
 気付けば副寮長に足を運んでいた。
 返事が返ってきて喉が鳴り、自分がしたいと思っていることに気づく。
 自覚しなくてもとっくに虜になっている。


「今日はお疲れ様」
 支葵は体力の消耗が激しいもんねと微笑みながらオレへと振り返る。
 揺れた髪の間から見えた首元に釘づけになった。
「錐生くんに横取りされちゃったんだっけ?
 ちゃんとしなきゃ怒られちゃうよ、僕のお祖父様とか君の大叔父さんに、ね」
「めんどくさかったから」
 あははと軽快に笑って、一条さんは首を傾げた。
 真っ赤な唇が動く。
「僕に報告しに来たの?珍しいね、支葵がそうゆうことするの。
 でも枢に直接言った方が効率は良かっ―」
 声は吸いこまれて喉を通る。
 もう生気を吸収する器官は退化してしまったけれど、何かに満たされた気がした。


 刀を操るところからも見てとれるように決して華奢では無い腕に身体を引きはがされる。
 いつの間にか抱きしめるように縋りついていたのだ。
 簡単に動かされるオレは決してこの人に力では勝てない。
「どうしたの、支葵」
「ねぇ、一条さん」
 だから、話す。
「一条さん…オレね」
 オレの胸板に触れる腕をつかみ、口元に引き寄せた。
「疲れた」


「…っ」
 薄い皮膚を刺し、血管に触れる。
 流れ込む血液は酷く甘い。
「すき」
「知ってるよ」
 だからって吸っていいわけじゃない、と腕を取り上げ(元々一条さんのだけど)タブレッ
 トを渡された。


「それにね、どうせあげるなら支葵の中にあげたいな」
 爽やかな笑顔で下品なことを言い放って、手を振られた。
 帰れという合図のようなものだ。
 それでも動こうとしないオレに一条さんは言う。
「それともする?」


 血液と精液。それがオレ達吸血鬼に与える「気」は身体で直接精製されているという点
 で同質のものと言われている。
 平たく言えばえっちで中だしされればそこから気を得ることができるのだ。
 同性でもそれが成立するところが神秘的だとも言われている。
「する」
「なんて言ったらどうするんだい?」
 はぐらかされて、でもこの人はそう言う人で。

 
 無言で立ち去ろうとしたのに背後から授業休んじゃダメだからねと言われたのでこれか
 ら寝るのはやめよう。
 夕日が眩しくて目を細めた。


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