責任問題


「ジュンサー…責任とるよ」
 いつになく真面目な顔で考え事をしていると思えばこれだ。
「心当たりが無いのですが」
「キズものにしちまったから」
「骨、のことですか」
 鼻骨と肋骨と肩甲骨にひびが入ったらしい。
 医師はからりと、いっそ笑いながら告げた。
 警察官としては珍しいことではない。

「だから、責任、とる」
 なぜカタコト。
 それだけ誠意がこもっているとみてもおかしいものはおかしい。
「そんな若い女性に対するように言われましても自分のことですし」
「でも前歯だぜ?」
 骨の話ではないらしい。
 ならばさっき否定してくれればよいのに。
 話の跳躍にくらりとするがこれもいつものことだ。

「そんなもの、いっそ勲章です」
 なのでお気になさらずに、というつもりで言うと実に悲しそうな目で主任はこちらを見る。
「笑ったけどよ…」
 今度は何の話だ。
 視線の先には自分の口元が当たる。
 まだ歯の話らしい。

「最初は間抜けなツラだって笑えたけどよく考えろ。
 せっかくジュンサーってば悪くない顔なのに俺のせいで」
「さすがに義歯はつけますが」
「………」
「まさかこのまま生活するとでも」
「………」
 図星のようだ。

 普段ならその短慮さを窘めるところだが今回は自分のことを思っての勘違いだ。
 随分と主任の内側に自分が存在出来た気がして嫌な気分にはならなかった。
「さっきご自分が歯医者へ連れて行こうとなさいましたよね?」
 せめて優しく言おうと思った言葉はついいつものような指摘に変わってしまった。


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