エコロジストへの道のり 時間、だいたい正午過ぎ。 腕時計を確認しなくたって腹時計が文句を垂れている。 覆パトに乗って、再び緩く高騰してきたガソリンを力一杯使用中。 スタンドの横を通りながら値段を見て、普段気にしないエコ精神に目覚めそうになった。 「毎日毎日こーやってパトに座りっぱなしってどうよ」 空気に悪いって、ストップ地球温暖化。 そして腹もへりました。 実になめらかで高級車にでも乗っているような気分にさせる運転実行中のジュンサーに声 をかけるとため息交じりに返される。 「主任が毎日警邏だと仰ったのですよ」 いつもそうだ、簡潔に話を終わらせる。 さては理系だな。 会話を続かせようという気が無い。 …まあさ、男二人できゃっきゃと会話するのも不気味なんだけど。 空腹を紛らわすべく煙草に火をつけた。 やっぱりこれが一番だ。 うそ、女の子が一番。 …やっぱ両方一位タイ。 そんな自分が好きなものランキングを作っていると、また溜め息をつかれた。 「…自分としましては毎日副流煙を肺に入れていることの方が迫りくる問題だと思います」 「吸わせろよ、暇なんだから」 嫌がらせ半分にすぱーっと息を吐きかけた。 目に染みたのか、きゅっと目を瞬かせる。ざまーみろってんだ。 そしてまたまた溜め息。 知ってるのかね、溜め息ってやつは幸せを逃がしちまうもんなんだよ。 まったく、一日で幸せ何個逃がす気かね、こいつは。 にしても、暇だ。 「暇な時間を楽しめばいいでしょう。 平和なことはいいことなんですから」 尤もなことを言われたって「はい、そうですね」だなんて同意できるわけがない。 生真面目な部下と密室で紛らわすものもなしに生きるのは苦しすぎる。 「エコノミー症候群っての? ぜってーアレになるって、降ろせ、ちょっと女の子としゃべってくるから」 「そう言われては意地でも降ろすわけにはいきませんよ。 あと、エコノミーではなくエコノミークラス症候群、あるいは静脈血栓塞栓症です」 「ジュンサーのバカッ」 「可愛らしく言ったつもりでしょうが正直、気味が悪いです」 何を言ってもムカつく奴だな。 なまじ見た目が良いから余計に優等生気取りぃ何それおいしいの?って反発したくなる。 「オレを甘やかしてほしいにゃー」 「そんな趣味も無いです」 「どんな趣味だよ」 幼女趣味?体内回帰願望?獣化好き? どれにしたってアブノーマルだぜ、ジュンサー。 うっ、と言葉に詰まるのを見て、嗜虐心に近い感情が湧きあがってくる。 ほんと、たまんない。 「ナニそれ語尾萌え? それともそーゆープレイが好きなの? そっかジュンサーにそんな趣味があるとは驚きだにゃー」 にゃははと笑うと肺がすかっとした。 メンソールをすった時みたいだ。 鼻が通って心地良い。 ああ、次はデス・メンソールかな。 灰皿に税金分の煙草を押しつけながら、これが最後の箱だと思いだす。 ふと呟いたはずの独り言にジュンサーはまた溜め息。 「主任には事件の予言も出来るんですか」 メンソール殺人なんて聞いたことありませんだなんてぼそぼそ言ってるあたり、どうもあ の有名な煙草の銘柄をご存じではないらしい。 勉強ばっかしてるからだ。 とはいえ、あらぬ能力を半ば期待されているようだったので釈明だけはしておく。 「出来たら今頃パトロってないっつーの」 するとタイミングを見計らったように無線がノイズを放ちだした。 「これでエコノミー症候群にはなりませんね」 そうか、溜め息でこいつは平和という名の幸せを逃がしていたらしい。 <<