ギミック


 嬉しかった。
 たぶん、理由はそれだけだ。

 しこたま飲ませて酔いつぶして家に連れ込んで。
 異常に苦労した。
 まず飲まない。
 明日がどうだとか言ってハナから自粛してやがる。
 そこを主任命令だとか言って打破して度のきつい奴飲ませて…
 なんで男、しかも直属の部下にこんなことしてんだかな。
 嘲り笑いが聞こえてくる。
 まあ笑ったのはオレなんだけど。


 ―さて、どうしてやろうか。


 とりあえずは興味本位でネクタイをとってみる。
 昼メシどころか焼き肉の時まで外さなかったのには意味があるんじゃねえの。
 仕事中なら何日だってつけれるみたいなこと言ってたけどおかしいだろ。
 群れる苦しい面倒くさいの三重苦をそんなことで片づけられるかっての。
 何かのカモフラージュに違いない。
 例えばキスマークが隠れてるとか引っかき傷が残っているだとか。
 うん、無かった。
 いっつも偉そうな口叩くから弱みの一つ二つ握ってぎゃふんと言わせてみたかったのに。
 いんや、オレは諦めねえ。


「お前だって人間だよな、ジュンサー」


 解いたネクタイを放り投げて、ふと思う。
 これ以上ナニかすればしこたま明日(ってか今日?)説教される。
 選挙演説よろしく覆パトという密室で文句を言われ続ける。
 って考えただけでも腹が立ってきた。
 なんでオレ様がそんなもん怖がらなくちゃいけないんだよ。
 とにかくキッチリした様を崩してやりたくてボタンに手をかける。
 いや待てよ。
 ヤローの服剥いて何が楽しいんだ。
 はたから見たらそーゆー趣味みたいじゃん。
 やだよ、オレは女の子が好き。
 オレの能力やバックグラウンドを知らずに好いてくれる子が良い。
 なのになぜだろう。
 少し幼く見える寝顔や、重力に従って横に流れる髪に触れたくて仕方ない。

 触りたい。
 オレのことを知ってても掴まれる手。
 むしろ特別視するわけでもない絶妙な加減で称賛してくれる声を発する唇。
 …今までだって居なかったわけじゃない。
 真さんだってアイコーだって―ま、2人しか居ないけど2人も居たんだ。
 自分でだって他人がこんな力を持っていたら避けたくなるに違いないとわかってはいた。
 ただその中で少なくても確かに認めてくれる人間が欲しかった。
 理解はしていたけれど、世界は圧倒的にオレの敵だった。
 オレを裏切らない証が欲しい。

 気づいてみたらあまりに幼稚すぎて本格的に可笑しくなってきた。
 バッカじゃねえの、ガキかっつーんだよ!
 感情の赴くまま、2人分の衣服をベッドの脇に転がす。
 明日(あれ、今日?)起きたら言ってやろう。
 ジュンサーってオレのこと好きだったの?って。
 裸の自分とオレを見て驚くだろうな。

 
 今日はよく眠れそうだ。


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