俺たちの世界は完結している。
 二人きりで循環している。
 もう血は吸わない。

 だって夏野がいるんだから。

 今日も早く起きてしまった。
 体内時計が日差しを感じるのについ窓辺に腰掛けてしまう。
 夏野は何をしているのか。
 普通の起き上がりと違って日光に脅かされていないのだから行動の幅は広い。
 屍鬼の撲滅を画策しているのだからきっとそのことについて思いを張り巡らしているのだろう。

 なぜだか夏野は独りだと思った。
 そうして余が暮れるのをあの木の上で待っているのだ。
 桐敷に疑われてはいけないからと毎日会いに行く訳ではないのに。
 俺を待っているのだ。

 あんたは密偵だと夏野は怒ったように呟く。
 いつも言い聞かせる。
 でもそれって夏野が勘違いしそうになってるってことでしょ。
 夏野まで勘違いしたいって言ってるのと同じ。

 俺たちの世界は完結している。
 密偵と雇い主。
 狩人と捕食者。
 俺と夏野。
 口から口へ循環する体液。
 もう血は吸わない。


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