いろんなことが変わった。
 それは生きていれば当たり前のことなのだけれど、俺は生きてはいなかった。
 身体の上から聞こえる荒い息は惰性だ。
 本当は息を止めていても死なない。
 どれだけ激しい運動をしていても呼吸は乱れない。

「徹ちゃん、重い」
 その一言で身体に触れる面積が一気に減る。
 重みが減る。
 身勝手さが減っている。



 ほんの数か月前までの俺達は、それは不毛な関係を気付いていた。
 今も非生産的であることに変わりは無いのだけれど。
 いつだったかクラスメイトに連れられて見たアダルトビデオに書いてあった気がする。
 セックスフレンド。
 自分たちはまさにこれだと納得したものだ。
 愛もないくせに、ただ交わる関係。

 とはいえ、変わったこともある。
 俺と徹ちゃん。
 起き上がった俺達。
 起き上がるためにはもちろん先に一度殺されている訳で。
 俺は徹ちゃんに殺された。

「彼女、出来なかったね」
 やけに優しい声音に自分でぞっとする。
 近頃、時折こんな声が出る。
 それは決まって徹ちゃんと身体をつなげている時だ。
 身体の中に埋め込まれた徹ちゃんをも優しく締め付けた。
 ずっと望んでいたことが叶って、つい立ち場を忘れそうになっている。

 俺を殺した徹ちゃん。
 まさか俺までもが起き上がるとは思わなかったのだろう。
 再会してから文句も言わずに俺に起き上がり達の情報を流す。
 スパイのように扱う、いや、スパイそのものだ。
 俺の言うことには逆らわない。

 これは徹ちゃんなりの謝罪なのだろうか。
 俺のしもべの様になることが。
 そのくせ昔からの惰性の様に俺を抱き続ける。

「いたら夏野相手にこんなことしてないよ」
「前も言ってたね」
 女が好きだと断言したこともあった。
 俺より良い物件が現れたら即、鞍替えするみたいなことを言っていた。
 運命の女性が現れる前に死んじゃった可哀想な徹ちゃん。

 それでも、彼女の有無に関係なく俺は抱かれるのだろうとも思った。
 もしかしたら女の方が良いと気づくかもしれないが何せ今、人間ではないのだ。
 相手も起き上がりになっていたら話は別だが可能性は低い。
 そこに俺が起き上がってみろ。
 きっと同じことになっている。
 確信するし、盲信している。

 だから不安になる。
 無くすものなんて元からないのに辛くなり言葉をねだる。
 女々しい。
「言って、徹ちゃん」
 腕で徹ちゃんの背中を、上半身を絡め捕る。
 脚で徹ちゃんの下半身をこれ以上ないほどに密着させる。
 腰のあたりに力を入れ、腸壁が、離さない。
 


「好き…だよ、なつの」



 苦しそうに吐き出された言葉に涙が出た。
 条件反射の様にいつも繰り返される言葉でも良かった。
 もう痴態は見せない。
 じっと徹ちゃんを眺めて肩口に額をうずめ、俺は笑った。


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