<<前回のあらすじ>>

 恋人という権利と己の力をもってして夏野の身体を蹂躙せしめた武藤徹(18)は、太い
 注射に悶え苦しむ夏野を見て現実を忘れていた。
 いい気になっていたのも束の間、その恋人、結城(小出)夏野(15)に身体の自由を奪
 われる。自分には関係のないことだと思っていた矢先、災いが降りかかる中、食い込む
 荒縄が徹の意識を覚醒させた。


 
「おはよう徹ちゃん」
 寝たのは昼だったよなぁ、あぁ、昼寝の後か。
 かわいい恋人の顔を見ながら徐々に思い出す。
 そうだ、俺は寝ていたんだ。
「来てたんだ夏野」
「気を失ったのはそっちの方だろ」


 ありがとう、完全に思いだしたよ。
 ベッドにくくりつけられた体をよじってみたものの簡単には解けそうにない。
「もうちょっとで先生来るから」
「先生って…尾崎の先生?」
「当たり前だろ」
 他に誰が居るんだよと言われて学校の担任を言ったら笑われた。
 

「ほら、俺これでも受験生だからさ」
「ゲームばっかしてるけどな」
「夏野の方が勉強してそうだしなぁ」
 はははと笑ってみて異変に気づく。
 いや、気づかないふりをしていた。


「それが俺を縛り付けることとどう関係あんの?」
 夏野はやけに良い笑顔を浮かべる。
 いっそ不気味だ。
「徹ちゃん、受験生だもんなぁ」
「…そうだけど」
 それに何の関係があるというのだろうか。
 昔からの少し変わった風習の残る村だけど受験生を縛る祭りなんて無かったはずだ。


「葵が言ってたぜ、満18歳は予防接種受けるんだって」
「でも義務じゃないし」
「それにインフルエンザも受けとかなきゃだよな」
「バカは風邪ひかないっていうだろ?」
「徹ちゃん1人が受けないせいで保っちゃんや葵やおじさんおばさんまで苦しむかもしれないんだぞ」
「だからひかないって、ひいても俺の中で飼い殺すから」
「苦しいぞ」
「いや、かかってみたら意外と平気かも知れないし」
「それにさ、この村年寄りばっかだから徹ちゃんは良くても死ぬ奴とか出てきたりして」
「…それは」
「だいたい、おじさんが病院に勤めてる時点でよくもまぁ毎年逃げようと考えられるもんだ」


 言われた。
 一番痛いところをつかれた。
「それで、これは誰の作戦?」
 夏野は俺の言葉を聞いて数秒黙った後、俺、と自分を指差した。
 あぁ、良い笑顔だね。
 階下から葵の声が聞こえて俺は抵抗を放棄した。
 しようと思った。



「これはこれは」
「どうぞ、ぶすっと一発やってやってください」
 お前は俺の保護者か。
「おーおー、痛いけど動いたらもっと痛いからな、気をつけろよ」
 そしてあんたも悪乗りしすぎだ。
 針を刺すふりをしては何回も離して笑う。
 夏野も笑う。


「年甲斐もなく涙目になってんじゃねーよ」
「初心だなぁ、武藤くん」
 父さんの上司だとかへそ曲がりの恋人だとかもうどうでもいい。
「人で遊ぶなぁっ!!!」
 叫んだ瞬間、左腕に激痛が走った。
 ひぃっ、だってと笑う夏野よ、覚えてろ。





 Endless repeat


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