変態。
 最近よく夏野に言われる言葉だ。
 少し抱きついたり撫でたりするだけで酷いレッテルの貼り用でこの子は普段どうやって
 友人と接しているのかと不安になる。
 その反面、人懐こいとは決して言い難い性格の夏野が自分にだけは心(というより接触)
 を許してくれているという現状に浮かれてもいた。
 満足はまだしていないけれど。

 けれどこれは自分でも変質者的だと思うのだ。
「徹ちゃん、ちょっと便所借りる」
「うんいってらっしゃーい」
 来た。
 やたらに飲み物を進めた甲斐があったというものだ。
 勝手知ったる人の家と戸を開け夏野は出ていく。


 ごめんな夏野。
 心の中では謝ってみるけど改善できる気はしない。
 壁に耳をつけて便所スリッパを履く音を聞く。
 壁の薄い家なんだ、だなんて誰に向かってか弁解。
 1歩、2歩スリッパの音にさえ興奮する。
 続いてチャックが降りて布がすれる音がして吐息。
 これが何ともいえず色っぽい。
 普段たまたまトイレに居合わせてしまった人間に嫉妬と少しの憐憫を感じる。


 尿が放出される音に夏野が少し我慢していたことがわかった。
 水音が激しい。
 俺との会話を優先してくれていたんだと胸が少し暖かくなる。
 夏野は可愛い。
 顔はもちろんだけど行動も性格も全部。
 誰が何と言おうと俺はあいつが好きだ。


「おい変態」
「ほぇ?」
「ほぇじゃないよ、この変態が」
 あれ?
 夏野が俺…より少し下?を見て蔑むような憐れむような目線を向けてくる。
「俺まだ何もしてないよ?」 
 そりゃ俺だって青少年だし?
 夏野とあんなことやこんなことをしたいと日々思っちゃいるさ。
 夜とかめくるめく妄想ワールドを広げちゃいるさ。
 だけど清く正しく少し変質的に生きているじゃないか。


「いや、なんか変態っぽいこと考えてたんだろ。
 もう何でも良いよ、それさっさとどうにかしろ歩く公害が」
「それ?」
 ………あ。
 下半身が人に見せられないようなことになっていた。
「ごめん」
「目の前からさっさとそれを消せよ」
「確かに俺謝ったからね?」
「うん?」
 逃げるように階下の便所へ走るのだった。
 とりあえずここでフェイドアウト。
 夏野との薔薇色生活はまだ遠い。


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