『普通』という言葉にどのくらい意味があるのかと問われればそこで終わってしまうよう な根気も何もない持論のようでいて別に捨てても何の躊躇いもない意見だけれども僕はあ えて世間一般大多数が考えているのではないだろうかと僕が思ったことをそう読んでみよ うと思う。 普通、昼夜逆転とは夜に精力的に動き回ることで、夜に安らぎを求め、心の中を果ては記 憶の中を彷徨うことはなんらおかしなことで無いかのように思う。 それが真に安らぎ、自分を慰めるものならばだ。 歪んでいる。 脳内に幻を紡ぎ出し、欲望を抱き、放出するそれは。 ここでまた、普通という定義に戻ろう。 幻の形が『普通』であれば問題はないのだ。 それが犯罪的なシチュエーションであるとか犯罪そのもの―そう、強姦とか―なら安易に 普通であると頷く訳にはいかないがぎりぎり正解だと思う。 相手がいけないのだ。 僕の頭の中には敏夫が居て、思うままに行動してくれてしまう。 例えばそれは体がむず痒くなるような清らかなお付き合いの形であったり、はたまた乱れ に乱れた青少年の欲望を形にしたようなものであったりと様々だが僕は幸せで仕方なかっ たことだけは確かなのだ。 気の強い彼が羞恥に顔を赤らめる様や、覚えのない快感に身を震わせる姿。 口では罵倒ばかりなのに僕に縋りつく彼。 まるで夢のようだった。 実際、夢の中だったことも数知れないが、とにかくそれは現実ではなかった。 夢か妄想の産物に過ぎない。 現実でない事実に僕は安堵を覚える。 不安にかられ、切なさを感じ、未練が残る。 果てに罪悪感だけが匣の隅に取り残され、僕を責めるのだ。 異端と罵り、半透明なその姿で飛礫を投げ、追いかけまわす。 僕にとっての夜とはすなわち安息で安住の地への果てない流浪で逃亡なのだ。 間接的にしか見えない陽の光から離れようともがく。 けれども朝はやってきてしまい、やってこなくては困る。 あの子の言った話ではないけれど、何も気付かないでいられた花園から追放された末、辿 り着いた儚くも自分に正直な流刑地からの逃亡は果たして何処に繋がるのだろうか。 必死に、なんの意味も持たないと知りながら、夜を保とうと2つの眼を開き続けるけれど、 また太陽に追い付かれて流刑地が眼前に広がる。 僕は何処に行きたいのだろう。 ただ幼馴染に朝に会ったというそれだけで浮かび上がる彼の笑顔に打ちのめされながら、 今日という日がまた始まろうとしている。 僕が毎晩、頭の中で己を屠っているとは知る由もない。 やんちゃに笑う彼がの顔が映える、朝顔の開き始める何の変哲もない初夏のことであった。 決してこれを普通の日と、人は言うまい。 <<