気付けなかった。
 徹ちゃんの死に。
 垂れ下がる鯨幕を見つめる。
 母親のメモが頭の中を駆け巡る。



 死んだ。



 徹ちゃんは、死んだ。
 何故か信じていたのだ。
 徹ちゃんのことならわかると。
 科学的でないことぐらいわかっていたくせに。
 信じたかった。
 愛する人の変化に。


「愛ね…」
 自分の考えた言葉に動揺する。
 そうか。
 俺は徹ちゃんが好きだったのか。
 そう思うと今までの行動が繋がる。
 勝手に心も身体も暴かれたような気がしてたけれどとんだ被害者面だ。


 それは、死に顔だった。
 何をどう定義してそう思ったのか自分でも推測はつかないけれど、間違いなく徹ちゃん
 は死んでいた。
 俺を置いて。
 こんな気分になるくらいならと勉強を続けようとしてふと感じる視線。
 あくまでこれは被害妄想なのだと思いつつも窓の外に意識をやる。
 徹ちゃんを殺した女が居る。


「殺せばいいだろ」
 言葉がこぼれ出す。
 誰が聞いてるわけでもないのに。
 誰が聞いてるか分からないのに。
 俺と仲が良いからと殺された徹ちゃん。
 暴いた墓に居なかった清水。
 じっと俺を見つめる視線。
 すべては繋がる。
 

「そうすれば徹ちゃんのところにいける」
 死は人を呼ぶだなんて村の連中は言っていたけれど、ならばなぜ俺は生きているのか。
 無駄なことばかり話す癖に肝心なことは教えてくれない。
 起き上がりは何だ。
 清水は何になった。
 俺は何と対峙している。


 それとも―
 今になってようやく思いつく。
 徹ちゃんも起き上ったのか?
 もう1度、墓を暴けば簡単に分かることだ。
 田中姉弟をけしかけるのはきっと容易い。
 でも俺はしなかった。
 思いついていたのにしなかった。


 信じたかったのかもしれない。
 徹ちゃんは化け物にならずじっと眠っているのだと。
 信じたかったのかもしれない。
 愛の力は実在するのだと。


 知らないふりをする。
 気づかないふりをする。
 曖昧なままが幸せなことだってある。


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