もうすぐ日付が変わる。
 行き帰りと今日はバスにとことん縁のなかった夏野はもう寝ようとしていた。
 カレンダーの日付を見て夏野はふと思い出す。
 確かハロウィンってそろそろじゃなかったか、と。
 面白いことがあるわけでもないのに天井をぼーっと見つめる。
 別に何をするわけでもない。
 少し考え事をしているのだ。
 

 ハロウィン。
 クリスマスと違いあまり日本には普及していない行事だ。
 例えるなら盆が一番近いのだろうか。
 別に誰かに説明する必要があるわけでもないので自分が納得すればそれでいい。
 この時期になると街はオレンジと黒で彩られ、こうもりやゴースト、そして人の顔をし
 たかぼちゃのランプが気味悪く笑っている。
 そんなところに夏野は前まで住んでいた。
 都会とは言えないが田舎でも無い、曖昧な所に。
 

「ま、こんな田舎には関係ない話だな」
 イルミネーションどころか店頭すら数えるほどしかない。
 必要最低限と言わんばかりに質素なものだけが棚を埋める。
 なぜか割りばしで作ったような梯子も売っていた気がする。


 そういえば去年にはここに住んでいたが、他の家でのクリスマスの認識とは如何なもの
 であったのだろうか。
 徹ちゃんの家で騒いでいたので考えたことが無かった。
 考えても仕方が無いことではあるが。
 あの家ももともとは余所者らしく、合うと言えば話が合う。


「…徹ちゃん」
 はずみで思い出してしまった。
 この村で唯一、気兼ねなく話せた親友。
 近所の優しい兄貴役。
 やめたくても止まらない何気なく暮らしていた日々の干渉。
 目が回りそうなほど高速で駆け抜けていく記憶。
 終着駅はいつも同じ。
 死に顔だ。


 夏野。
 女みたいだと嫌っていた名前を呼ぶ声がする。
 とうとうあいつは死ぬまで直さなかった。
 結城くん。
 死んでからもなお視線をよこしてくる女を思い出す。
 あぁ、ハロウィンは盆のようなものだったか。
 時計はとっくに真上を指すのをやめていた。



 来る。
 霊が、帰って。



「馬鹿馬鹿しい」
 布団を頭までかぶる。
 死人が生き返るだの魂がやってくるだの非科学的で実に非現実的だ。
 賢いふりをして笑い飛ばそうとする。
 ところがどこかで冷静にも非情にもなりきれない子供の自分が言うのだ。
 夢見るように叫ぶのだ。
 なぁ、来るなら今だぜ。  


 がたり、と家が軋む。
 築一年でこれとは先が思いやれられる。
 そう思いながらある考えを過ごそうとしてみるがやめられない。
 窓ぶちに手が伸びそうになる。
 これは寒気ではない、戦慄だ。
 小さく震える体を寒さのせいにして、夏野は布団の中で丸まった。


 来ない。
 ハロウィンなんて信じていない。
 霊は居ない。 
 例え清水が掘り出されていても。
 居ない。
 壁一枚を隔てて、徹ちゃんは。


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