=極論二等分= 「来い」 袖をつかむようにひっぱられて、普通なら「どした?」とか言うけど山本がその言葉を 口にすることは無かった。 相手が獄寺だったからだ。 抵抗しようと思えばできたし、もう授業だし。 くるくるとない頭を回転させつつも引かれるままついて行く。 (俺はずるいのかもしれない。) 友達って枠組みの中で何か所もカテゴリー分けして、それに合わせて応じてる気がする。 表裏とかじゃ数え切れないほどたくさんの顔。 八方美人って俺のことかもしんない。 獄寺の腕を見つめながら思った。 扉が開く。 屋上には誰もいない。 「誰もいねぇな」 そりゃ授業始まっちまったもんな、と1人で続ける。 階段を上っている最中にチャイムは鳴っていたのだ。 「獄寺、授業始まっちまってるぜ」 ただでさえわかんないんだからせめて出席ぐらいはしといたほうがいいって前に獄寺 が言ってたじゃないか。 そう言っても返事は無い。 「なぁ」 人を拉致っといてだんまりだ。 山本は会話の間がなんだか苦手で思わず当たり障りのない言葉を発した。 「次って英語だよな。やべー、ぜんぜんわかんねぇんだけど」 「また教えてくれよな、獄寺」 きっと断らないと知ってて言葉にする。 「そんときはツナも一緒でさ」 何にも言ってくれないから、つい、ずるいと思いながらツナの話題を会話に挙げた。 尊敬と言ってもおかしくないほど獄寺はツナのことが好きだから。 やっぱりずるいや。 自分の考えに思わず苦笑が漏れた。 「俺と付きあえ」 「…いいぜ」 この時の山本の心中を知ることなど誰にもできないがもしもできたとして、獄寺が見た ら卒倒したことだろう。 どこへ?と言ってこの空気をごまかそうと考えていたなんて。 獄寺が思うほど山本は単純では無いのだ。 「帰る」 そう宣言して山本の理解が追い付かないうちに獄寺は校舎に入って行った。 告白したわけでもないのにものすごく疲れていて、屋上と友達になる。 授業、出なきゃな。 獄寺は絶対いないだろうけど。 もう一度開かれた校舎との間のドアに自ずと目が行く。 「君、授業中じゃないの」 「あー、ヒバリか」 「僕じゃ不満って言い方だね」 ストンと山本からだいぶんと離れた所に寝転んだ雲雀はふと山本の方を向いた。 「それとも風紀を乱す気ってなら相手になるよ」 ヒバリそればっかなのなと山本が笑うと雲雀は空を見上げて寝息を立て始めた。 「あ、授業出なきゃ」 6限目が終わる。 野球部の輪の中にいた山本の視界の隅に銀色に輝く物が横切った。 「獄寺っ、帰ってきたのな」 今まであった謎の壁も振り払って獄寺に抱きつく。 もう、触れてもいいはずだ。 「っるせぇな。野球バカはさっさと部活にいきやがれ」 いつも通りのけんか口調に見えたツナは間に入って獄寺に話しかけた。 「それにしても獄寺くんどこ行ってたの?心配してたんだよ」 「す、すみません10代目。 俺のために心配してくださったなんて…俺喜んでいいのやら自分を叱ればいいのやら」 「反省すればいいと思うよ。 …うん、まぁ授業は出た方がいいんじゃないかな。 獄寺くん頭良いけど一応、さ」 「そーなのな。獄寺頭はいいんだから」 「んだと、偉そうに」 獄寺があまりにいつも通りなので先ほどの告白は「どこに?」が正しい対処で、本当は どこかについてきてという意味だったのではないかと山本は思い始めていた。 (もしかしたらまだ日本になれないのかもしれないし…な) 「山本は今日も部活?」 「晴れてっからな」 外は雲一つない絶好の野球日和だ。 「十代目、こんな奴のことはほっといて帰りましょう」 ちくりと胸が痛んだ。 「ツナも獄寺も部活ねぇしなっ」 自分の言葉にまた痛む。 「2人とも、なんか変じゃない? …気のせいならいいんだけどさ」 「何もありませんよ」 あ、何も無かったんだ。 山本は昼間の記憶を胸の底に沈めることにした。 「ねぇ獄寺くん」 「なんでしょうか、十代目」 「いや、大したことじゃないんだけどさ、今日なんかあった?」 「わかりますか?」 「なんか手に取るように分かってきた気がする…。 説明しなくていいから」 「さすが十代目、なんでもお見通しなんですね」 君が分かりやすすぎるだけだけどね。 なんて言ったら自分がまた過大評価されてしまうとツナは思い言葉を変更する。 「良かったね」 「はいっ」 上手くいけばいいんだけど。 ツナが呟いた不吉な言葉はまもなく現実のものとなる。 <<