どうしてこんなことになってるのか。
 明確な答えが脳裏をかすめるのに俺は首を振って考えを振り払った。
 それを拒絶と取ったのであろう。
 相馬は俺の顔を固定し直し、息をも奪う深いキスをしかけてきた。

 なぜこうなった。
 生理的に涙がこぼれる。
 相馬がぼやけてゆらぐ。
 まるで泣いているみたいじゃないか。
 こうしてまた拒絶されたと思った相馬が実力行使に出るのだ。

 何をしているのか。
 運転席のシートを倒されて相馬にのしかかられている。
 ただでさえ広いとは言えない車内がいっそう詰まって見えた。
 身動きもとれない。

 いつのまにこんなことになった。
 バイトの帰りのことだった。
 相馬がやたら送ってほしがるものだから乗せてやったのが事の始まりだったのだと今なら分かる。

 抵抗する気にはなれなかった。
 キスをするなら好きな奴とが良いと思ってる。
 実際に浮かぶのは先ほど別れたばかりの八千代の顔だ。
 ただ、本当にしたいのかと聞かれれば少し違うような気がした。
 こんなに貪られるように口付けられて思う。
 俺はあいつにこうしたいのか、と。

「佐藤くん」
 場に不釣り合いなほど普段通りの呼びかけに返事はしない。
 息を整えるだけで精いっぱいだった。
「ごめんね」
 言いたいことが出来て口を開いた瞬間に舌をねじ込まれる。
 声は出ない。

 もうどのくらいこんな関係を続けているのだろうか。
 確かレポートに追われていた時だからもう3カ月。
 こうして隙が出来ると相馬はキスをするようになった。
 いつも俺が抵抗できないような場所を選んでの行動。
 けれどそれだけ。
 キス以上は何もなかった。

 本来ならば拒否して絶交だとか嫌悪の言葉をくれてやるべきなのだろうと思う。
 けれど好きだとすらいわれていない俺に出来ることは無く。
 被害者のように泣きながら口付けてくる男を責めることはできなかった。


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