「もう晩ごはんは済んだのかな?」
 休憩室で煙吐き機になっている彼を覗き込むと不思議そうな顔でこちらを見た。
「佐藤くん、俺が、晩ごはん、作ってあげようか」
 一言一言区切るように言うとやっと理解したのか首を横に振って煙草を片手に持った。
「帰って食う」
「今日は俺がおごってあげるよ」
「Bランチ」
 材料が余っていただろうと昼のメニューを告げる彼に背を向ける。
 頭の中は既にレシピがまわっていた。

 こうしてみると俺は料理が好きだ。
 人によっては実験に例えられるほどに繊細なそれは案外性に合っているのかもしれない。
 観察眼が養われるし何より達成感がある。
「キャベツ多めにしといたからね、3gほど」
「それは多いとは言わないんだよ」
 人の厚意を無下にしながら咀嚼される食物に焦がれる。
 箸が近付くたびに薄く開かれる唇に自分が吸い込まれたくなる。
「じろじろ見るな」
「いやぁ、味はどうかなって」
「ファミレスの味」
「そうだけど」
 違う、違うんだよ佐藤くん。
 スマイルは0円でも愛情は有料で。
 プライスレスなそれを君の身体にいれたくて。
 君の身体を作る僕の料理の感想が聞きたいのであって。

「まぁばれても嫌なんだけどね」
 これは笑っちゃうような片思い。
「何か言ったか」
「言って無い」
 そうかだなんて一人で納得しちゃうような君だから。
 焦がれる愛を手に入れられないんだよとは言わなかった。


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