「不破、その…マサムネ殿は元気か」
 珍しく登校した朝から方丈兄が何か言いたそうにしていたのはわかっていた。
 遅刻か生活態度か天のことかだと思い放っておいたのだ。
 言いたいのなら言わせてやるが、わざわざ聞きにいくのは、面倒だ。
 1日の授業が終わり海に走る天に護衛をつけたころ、ようやく奴は話しかけてきた。
 と思えばなぜか天の家の犬の話らしい。

「そういうことは天に聞け」
 うちの犬じゃない。
 俺になついているが、それでも、一応は。
 はて、一昨日に草薙と校舎裏でなにやら話していたのを見たのだろうか。
 早く帰れと通訳させたがどうせあの動物好きはそのあとも延々と井戸端会議にいそしんだに違いない。
「隠さなくて良い、マサムネ殿は」
「…殿?」
 いつも上から目線なくせにマサムネにはえらく下からだ。
「さてはおんし、奥州の波に呑まれおったか」
 戦国ブームというやつがあるらしい。
 峰が女の子の間では流行ってるのと言っていた気がする。

「昨日読んだんだ」
「時代小説か」
「千と千聖の神隠しを」
 数年前に聞いたようなタイトルの本だった。

「成宮にあんな目にあわされていたとは知らずに…いや、悪い。
 あいつにも思うことがあったのだろう。
 だが名前まで取った挙句…」
 思うことも何もない。
 それは勘違いだと言おうとするが、よく回る口が話を続ける。

「マサムネ殿までもが人質になった今…違うな。
 きび団子を間違って渡してしまったのだろう?
 お前たちはアホだからな。
 そうしてマサムネ殿だけが人に戻れぬままになっているという訳だ」
「それは何処の国の話だ」
 ようやく話に割ることが出来た。

「那智文庫の新刊だ」
「そこはかとなく内容が古い」
「まさかお前にそんな過去があるとも知らず」
「無いからな」
「セクシーレンジャーのなれそめは風呂屋の仲間だったのだな!」
「意味が分からん」
「マサムネ殿に会いに行っても良いだろうか」
 天よりあほだ。

「んー、なになに、ちーちゃんとおにーちゃんで楽しいハ・ナ・シ?」
「慧がマサムネをどうしても見に行きたいんだって」
「那智、マサムネ殿、だ、辛い目にあっている彼に敬意を払え」
「そーだね、慧の言うとおりだ」
 目どころか表情が笑っている。
 爆笑したいのをこらえているのだろう。

「ホジョ弟ったら顔全体が笑ってるよ、隠す気ないでしょ」
「じゃぁみんなで不破っちょんちに行っちゃうよー」
 とんとんと進んでいく話にようやく狙いが見えた。
 そうか、こいつら(方丈兄除く)グルか。
 どうも良いタイミングであらわれて火に油を注いでいくと思った。

「目的はなんだ」
 天を先頭に歩いていく群れの最後尾をゆったりと歩いている峰の横に並ぶ。
「目的?、そんなの決まってるでしょ。 
 ちーちゃん家に行ったことないなぁ、行きたいなぁって話をやっくんと弟くんとし・た・だ・け」
「たまにお前の言動は腹立つな」
「たまになのがちーちゃんの良いところなんだよ」
 主犯3人と天然2人に俺が太刀打ちできる訳もないので諦めてそのままゆるりと帰った。 


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