=背中は語る=


「おい北村」
 奴はさも不思議そうにこちらを見つめてきた。
 まるでこちらがおかしなものであるかのようにだ。
「そうだな…例えるなら変質者にあったような顔をしている」
 俺を指差して大河ならいちころな表情を浮かべたって俺は流されない。
 断言しよう。
 異物はお前だ。
 そして変質者もお前だ。



「いやぁ最近熱くて仕方ないな、地球温暖化というやつか」
 人の家にきて第一声はそれか。
 わるかったな冷房器具がいまいちな家で。
「だからといって脱ぐほど暑くはない」
 いそいそと制服から何から脱ぎだす友に声をかける。
 そういえばこいつを家に上げたのは初めてだ。


「健全な男子高校生たるもの暑い時は脱ぐに限る」
「そりゃお前が居なかったらそうもするさ」
 大人しそうに見えても生徒会副会長でも体育会系はやっぱり違うな、背中が。
 なんてうっかりみとれそうになって今までにこんなことが何回かあった気がしてきた。
 そんなに俺は自分の身体にコンプレックスでもあるのだろうか。
 目つき以外不自由してた気はしないが。


「子供は風の子元気な子と昔から言うだろ?」
「それは冬の常套句だし俺が言うのもなんだが人の家で気を使うということを覚えろ」
「実は今まで秘密にしていたのだが裸族なんだ」
 …は?
 こいつ今なんか言った。
 何言った?


「露出狂という訳ではないはずだけど夏は特に服が邪魔になる」
「いやいやいや」
 ちょっと待てよ。
 あー、思い出して来たぞ少しずつ。
 こいつ更衣室に入るとすぱーって脱ぐくせに着替え遅いんだよな。
 おかげでよく待たされる。
「というのは嘘だ」
「ですよねー」
 うっかり信じかけた。
 北村の奴、慈しみの目みたいなのをこっちに向けてきてる。


「冗談はさておき高須、お前も脱げ。
 同性同士だ、何も気にすることはないさ」
「ヤロー同士だからやだって言ってんだよ、暑苦しい」
 別に何も言ってなかったけどさ。
 きっと北村と比べて少しくらい貧弱な自分の身体を見せたくないのさ。
 これは男の意地だ。
 …我ながらくだらない。
「まぁ言わずに脱げ」
「わっ、お前なにすんだ―」
 


「あ、ごめーん。
 ん?タイガちゃんじゃない、どちらさま?」」



 寝起きスッピンで息子の友達の前に出てくるな泰子よ。
「お邪魔しています、竜児くんの現クラスメートの北村祐作です。
 おやすみとは知らずに大声を出してすみませんでした」
 外面は完璧じゃないか。
 さすが副会長兼ライダーだな。
 人の家で上半身裸なこと以外は。


「息子さんとは仲良くさせていただいてます」
「そっかぁ、竜ちゃんのお友達かぁー、ありがとね。
 じゃぁ後はごゆっくり」
 俺はなんだか一刻も早く追い出したい。
 

 なんてうっかり現実逃避をしている間にさようならカッターシャツ。
 明日、いや替えがあるから明後日にはまたぴっちりアイロンかけるからな。
 じゃなくて、どうなってる、この状況。
 説明しよう。
 場所、俺ん家。
 状況、上半身脱いだ高校男児2人+もうすっかり夢の世界の住人な母親1人。
 あ、インコちゃんも忘れてないぞ。



「なぁ高須。何か感じないか」
「暑苦しい生温い、そしてなんだか気色悪い」 
 あと重い。
 確かに広いとは言えない我が家だが、だからと言って俺に馬乗りになるほど狭いか。
 狭いと言いたいのかお前は。


「好きなんだけどなぁ」
「なんか言ったか?」
「いいや」
 いっそそこがお前の定位置かと言わんばかりに俺の上に居座っていた北村を押しのけ、はて
 麦茶を出すべきかいっそ白湯でも出してやるべきか考えながら立ち上がるとふすまからきら
 りと光るものが見えた。


「お嫁にはあげるけど二世帯住宅は譲らないからね」
「わかってますよお母さん」
 何言ってんだこいつら。
 我が母及び我が友ながらつくづく不可思議な行動に理解することを放棄した。



「あー、あちー」


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