=ベクトル=


「・・・質問だ」


 このオレ様からの問いかけだ、ありがたく咀嚼しろ。
 十分解れたら迷わず飲み込め。
 不味いものを出す人間じゃねぇよ、オレは。
 オレはコックだ。


 
 そして、よく消化してから答えろ。



 めんどくさそうに奴は目を開いた。
 間違いなく寝てたはずなのに。
 …よめねぇ。
 奴は、いけすかねぇだとか言いながらも瞳を逸らそうとはしない。
 そんな目に何も無いのに後ろめたくなってオレの方からそむけた。


 勝てねぇ。
 ジジィに勝てないことは悔しかったが順当だった。
 ルフィに勝てないことも今となってはそれでいい。


 だが認めねぇ。
 まだ、認められない。


「そこのひなたぼっこしてる藻類に人間からの問いかけだ」
 こんなにも憎まれ口をたたいてしまう。
 誰に頼まれたわけでもないのに。


 結局、けんかをふっかけるのはいつもオレで悔しい。
 負けることはこんなに悔しいものだったんだと知る。
 思い知らされる。
 まだ何も答えられてないのに。
 口もきいてもらっちゃいないのに。
 重症だ。


「聞いてんのか、そこの寝腐れ剣豪サマ」
 さっきの言葉に相槌はいらなかった。
 がんばって考えても「どうぞ」ぐらいしか言えない。
 分かってるのに理不尽なことを言う。
 クールビューティーなオレ様はどこに置いてきた?


「まぁ良い。質問だ。
 てめぇにゃ人間様の言葉が通じるかしらんが聞きたいから聞くぞ。
 なぁ―」


 なぁ、なんでわざわざ怒らせようとしてるんだオレ?
 こんなにも大事なことを聞こうとしてるのに。
 それでもオレの口は言葉を続けた。


 
「オレが好きだなんて言わないよな?」



 大丈夫。
 オレの口には脳がもう一個ついてたみたいだ。
 だから、そんなことは聞かなかった。

 
「なんで海賊狩りが海賊になったんだ?」
 憎いんだろ?
 だから斬ってたんだろ?


「金が目的ってタマじゃねぇだろ、てめぇはよ」
 見てるからそんぐらいは知ってる。
 だてに船上ストーカーやってないぞ、こんちくしょう。
「それとも海軍に仕返しとか?
 あ、それもてめぇらしくないな」



「知った口聞くな」


 
 そりゃそうだ。
 一方的に話しかけられて自分のこと知ったように言われちゃ気にも障る。
 オレなら蹴る。
 でもこいつは刀に手をかけもしない。


「俺も聞く。
 なんで海賊になった」
 知らない。
 オレも分かるかよ、そんなこと。
 海賊なんか嫌いだ。
 あえて言うならルフィの船だから?
 分からない。


「・・・一緒だ。
 きっと俺とお前の答えは一緒だ」
 悟りを開いたような口調で剣士は言った。


「他に質問あっただろ?」
 こいつ、仏門越えて心読みでもできんのか?
 だなんてふざけたことも考えず口から言葉がもがき這い出た。
「オレのこと好きか?」



「お前の気持ちと一緒だ」


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