=おめでとう=


 人生十数年。
 覚えてるだけのこと、全部しゃべってるオレだけどさ。
 ひとつだけまだ言ってないことがある。
 





 ずっとオレの傍にいてくれたお前。
 オレの汚いところしか知らないんだろう?
 だって汚いところしかない。
 そう、口にしたことがある。


「………あぁ。汚かったな、あのころのお前は」
 口下手な剣士は嘘を知らない。
 だから眼はあの頃のように冷たくないんだろうけどさ。
「普通はお前は綺麗だぜとか言うだろ!」
 怒ったふりをすると笑う。
 

 そんなお前のくどき文句。
「お前の全部を知る」
 知りたい、だろ?
 おかしいよ、ほんと。


 今日はお前に全てを教えようと思う。
 道端を歩いてて見つけたんだ。
 理由を。
 教えたかったんだ、ずっと。
 でも、一年待った。


 もしも、
 もしもお前に捨てられたら・・・。
 そんなことをずっと思ってたから。
 でも今日みたいな偶然が重なったんだ。
 言ってもばちは当たらないだろう。


 奴は何も知らずに酒屋の仕事から帰ってきた。
 そんな緑頭に花を差し出す。
 こんな時期の曼珠沙華。
 彼岸に咲けよ、と思うけど。


 去年のあの日もそうだった。
 地球は狂ってる。


 ゾロはその花を見て取って投げた。
「何すんだ!」
 せっかく見つけたのに。
「こっちの台詞だ」
 去年、オレはこの花で死のうとした。


「これはオレのオレへの誕生日祝いなんだよ」
 へへ、言ってやった。
 クソ剣士は訝しげに花を見遣った。
「去年のこの日にオレは生まれたんだ」
 お前は知らねぇだろうけどさ。


「・・・知るか」
 ゾロは言葉と裏腹に落ちた彼岸花を優しく拾ってオレにつき返した。
「おめでとう」
 てめぇにゃ言葉が足りねぇんだよ。


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