=同一直線状にある絶対値の等しい存在= 背後に人がいるのはあまり気持ちの良いものではない。 それが殺人鬼だとしたらなおさらだ。 まぁ、後ろからグサッとやるような美学の持ち主じゃないだろうしその時はその時でも ある。 夕飯時に人の作った味噌汁が食べたいと豆腐持参で殺人鬼はやってきた。 追い返そうと思ったが例の錐を持っていたので諦めて部屋に入れた。 「・・・戯言だけどね」 豆腐を持って来ていなければ哀川さんに電話したと思う。 「傑作だろ」 どうせそんな考えぐらい奴も分かってて豆腐を買ってきたのだろう。 あ。 「きみは規則的な数字の羅列に魅力を感じるような人種だったりするか?」 「んにゃ、別に」 ぼくは割とそんな人種だ。 「ならば直線や円、あるいは立方体や黄金比を美しいと思うか?」 「まぁ悪くはないわな」 最高と言っても過言では無いとはさすがに言うつもりはない。 「目の前に配置されるものが整っていないと気が済まないとか言いださないよね」 そしたらこの部屋に来まい。 物が無いから関係ない気もするけれど。 「あー、なんだ!紛らわしい鬱陶しい細々しい。 言いたいことがあるなら直線距離で言え」 「きみはぼくの鏡として失格だね。 そのぐらい分かることが鏡の住人に課せられた使命だろ」 「俺はアリスか!あの妙に周囲に溶け込むメルヘンか!」 「別にアリスに罪は無いよ。 ルイスキャロルが話をすすめたいがために動かされてる手駒でしかないよ」 「手駒って俺もお前も西尾維新に動かされてんぞ。 現時点で二次創作になって果てしなく動いてるんだぞ」 「そういやルイスってロリコンだよね」 「話変わりすぎだよ。 もうすぐ360度廻って戻っちまうよ」 戻したらせっかくの会話が台無しだ。 「君は女顔だよね、背丈も含めて」 「なぁにさりげなく人の痛いとこついてくんだ。 そういうお前も背ぇそんなに高く無いじゃねぇか。 赤いのんと並べば存在感もミクロだぞ」 「・・・それは否定しないよ」 主従関係結んでるからね、ほとんど。 初対面で足蹴にされたしね。 ってかあの人に頭あげれる人間なんているのか? 「話戻すぜ。 大体なぁ、こちとらジャックなんだよ、切り裂きジャック。 ネーミングだっせぇけど人刻んでんの! いちいち立方体にばらせるわけねぇだろ」 「きみならできるよ!ぼくは信じてる」 「信じてるなら金でもよこせ」 「同情はしてないよ」 「あの時の少女も結婚したよな」 「見てるこっちは別に甘くないけどね」 「・・・」 滑った。 ものまねしなくて良かった。 「もっと話戻していいか?」 「今月の家賃代わりに払ってくれたらね」 「もしかしたら血のついた札になるかもしれないけどいいか?」 「返り血かよ」 「返ってないだろ。持ち主の血だ」 「それもそうだね」 「っで味噌汁は?」 「ん?」 鍋がぐつぐつ言っている。 今月はこのせいでガス代高くつくな、きっと。 「味噌沸騰させてたら解体すんぞ。味飛ぶっつの」 「大丈夫、湯豆腐だから」 笑顔から生まれた殺人鬼の笑顔が消えた。 ってことは死んだ? 「お前なぁ・・・味噌ぐらい買えよ」 生きてるらしい。 「きみが買ってきてよ」 味噌って意外と高い。 「今行ったらさぁ、スーパーの奴皆殺しにしそうな気分なんだけど」 「やめてよ、近くにスーパーあそこしかないんだから」 「気にすんな。なんのための京都だ。 歩け!平地を行け!」 平地も続くとなかなかしんどいことをこの殺人鬼は知らないようだ。 そんな奴はほっておいて皿に豆腐を分けた。 一丁四等分均等に分けるから二個ずつ。 「あのさ、ポン酢は?」 一日でこんだけ真顔になったのは初めて見た。 「わりぃ、醤油だよな、かはは」 置いておくことにした。 「めんつゆとか無いでしょうか?」 とうとう敬語だ。 「豆腐は豆腐の味で食べるべきだと思うな」 皿の中には少し欠けた豆腐が二つ。 <<