=何度でも俺に言わせて= 「やな夢見た」 「そう言いつつ、和彦は二度寝をするのだった」 「勝手にモノローグつけんなよ」 住居不法侵入罪で訴えてやろうか。 夢見のせいで負に高まった感情が怒りを覚えさせる。 「なんで居んのお前」 「私が居ては何かまずいことでもあるのですか?」 「鍵を信用出来なくなる」 あー、合鍵で入ったので壊してませんよと何を考えているのかいけしゃあしゃあと言い 放つそれに呆れた。 いつのまに合鍵を作ったのか聞くのさえめんどくさくなる。 「なんで居んのお前」 「おやおや、もう老化が進んでいるんですか。 さっきも聞きましたよ、その言葉」 「まだオレは27だ…」 してやったりと微笑むそいつに照れ隠しにも似た罵声を浴びせかけ、布団をもう一度頭 から被った。 「先輩、お誕生日おめでとうございます」 「うっせぇよ、この年でそんなこと言われても喜べるかってんだよ」 「また貴方の誕生日を祝えたことを喜ばしく思います」 恥ずかしい奴。 布団のせいで見えないがきっと真顔でくさい台詞を言っているのだろう。 去年もそうだった。 思えば一昨年もその前も奴はオレの生に感謝し続けてくれていた。 「オレもお前が、雷光が生きてて会えて嬉しいと思ってるぜ?」 「何か言いましたか? 聞き取れなかったんですけど」 的確に耳元を探りあてて口元を寄せてきたあいつはそのあとに小さく笑った。 「お前が死ぬ夢を見た」 「縁起でも無いですね」 「きっと血の臭いのせいだ」 雷光から漂う戦闘臭に気がついたオレはそう切り返した。 お仕事だったんですと笑いながらそいつは自分の服を見やって言った。 「私がここに来るときはいつも仕事の後のような気がします」 「奇遇だな、オレもそう思ってたところだよ」 そして感情の高ぶるままに襲い掛かってくる。 生き死にの境に立つ時間の後には興奮だけが残っていて、それを初めて処理してやった のがたまたまオレだったからだろう。 まるで決まり事のような来訪だ。 「ところで、本日といってももはや昨日の出来事ですが趣向を変えてみたんです」 相槌はうってやったがあまりにつかみどころのない話の切り替えようにまだ寝ぼけてい る頭は対応しきれない。 「揺れるんです」 「何が」 「ナニの話です」 真面目腐った顔で言うことではない。 まるっきりオヤジな発言に、つい育て方を間違ったかと頭を抱えてしまいそうになり、 別に親でも親代わりでも無いことを思い出す。 ただの元相棒で現、知人だ。 オレのため息の理由すら気にも留めず雷光はつらつらと経緯を語り出す。 「今日は雪見先輩に会おうと決めていました」 「もちろんお誕生日を祝いたいからではありません」 「また年をとったことをバカにしようと思ったんです」 「少しくらい誘惑してみたら面白いのではないだろうかと考え、下着を履きませんでした」 「でも駄目ですね」 「戦闘中ジャマで邪魔で俺の意思無視かよ下半身の分際でって思いました」 黙ろうか、この痴人。 「おーい、口調変わってんぞ」 ついつっこみをいれてしまう。 こうしてまた1つため息とともに年を取るのだろうか。 ならば吐く息ひとつ位、悪くは無いようにも思えてきて自己嫌悪に陥るはめになった。 -------------------------------------------------------------------------------- 09'雪見さん生誕記念SS <<