=そりゃもう全力で= 「先輩、愛してます」 「あぁ…聞いた」 擦り寄ってくる身体を無下に突き放せない。 損な性分だと分かっている。 重力に従って横に流れる髪をなぞるように見ていた。 同じベッドに横たわって同じ性別の男とすることなんて思いついてもするわけがない。 きっとこいつは違うんだろうと思い、久方ぶりに雷光の目を見た。 まっすぐ俺の視線とぶつかった。 「愛してますか?」 「愛してる愛してる」 言葉に出せば出すほど安っぽくなっていく愛。 オレは何してんだろうな、なんてぼやきたくなる。 答えは簡単だ。 流されている。 「殺してくださいませんか?」 「冗談じゃねぇ」 やっと正当に突き飛ばす権利を得たと思い、早速そうした。 雷光は傷ついた顔をして、あからさまに傷ついてみせた。 めんどくさい奴だ。 「なら、名前…先輩の名前をどこかに刻んでください」 すぐ横に置いていた刀をこちらに差し出してくる。 それを押し返し、ついため息をつく。 「なんで?」 「証が欲しいじゃないですか」 「いつの時代だよ」 「私は江戸時代を想像してみました」 「だろうな」 ガラスは脆い。 人は言う。 思春期の壊れやすい心を例えるくせに、建物の窓には必ずと言っていいほどガラスが使 われている。 もちろん特殊加工されているに決まっているがそれは置いておこう。 雷光は厄介なことに窓ガラスのような男だった。 脆いくせに居座るのだ。 そこに、当然のように、当り前だと言って。 オレはお前の恋人になった覚えも親になった覚えも無い。 なのに擦り寄ってきて、気づいたら布団を共にしていた。 もう一度言っておこう。 オレは流されている。 「即ちこれが私の欲望なんでしょうね。 証が欲しい。 自分にじゃなくて貴方へ。 愛情の裏返しです、憎いわけじゃありませんよ。 自分がしたいから相手にしてほしい」 「そうかよ」 そろそろ疲れてきた。 久しぶりにゆっくり眠れるんだ。 なんでこんな奴のために睡眠時間を割かにゃいかんのだ。 「寝る。おやすみ」 雷光に背を向けて、目を瞑った。 視界の色がやっと落ち着く。 「あと15分、正しくは13分で私は誕生日を迎えます。 プレゼントは雪見先輩が良いんです。 私を愛してくれる雪見先輩とえっちがしたいんです。 でも貴方は眠ってしまうのですよね。 いいですよ、勝手にしますから」 「寝れるか」 ぐわっさぁー!!!とでも効果音がついそうな勢いで起き上がる。 「起きて私を祝ってくださるんですか?」 嬉しそうな雷光も今は可愛く見えやしない。 「祝ってやるよ、手作りケーキでも和穂の寿司でもなんでも食わせてやる」 「いえ、そんなお気になさらなくても」 「するわボケ!」 そして一日中甘やかすんだ。 オレのためにも。 <<