=アントラクト=


「2人きりだなんて久方ぶりですよね」
 100%に限りなく近い確率で悪いことを考えている顔を雷光はしていた。
 何が悪いかって?
 オレの精神衛生にだ。


「久しぶりなのはわかった。
 近い、人のベッドに乗るな」
 迫ってきた雷光の浴衣の裾からのぞく足は妙に艶めかしい。
 それが例えどんなに変な柄の浴衣であってもだ。
「いいじゃないですか…ねぇ」
 可愛く首をかしげたって駄目なものはだめだ。
 何がダメかっていい年した男に可愛いなんて言葉をチョイスしたオレがもうだめだ。


「隣に居るだろお子様が」
「あの2人も今頃お楽しみ中かもしれませんよ」
 ボキャブラリーが絶対オヤジ入ってる。
 昼に言った人間年齢18歳だなんて言葉は本当かもしれない。
 どうも仲良しみたいですしと笑う雷光は目が笑っていなかった。


「全人類がお前みたいな桃色脳細胞してると思ったら大間違いだ。
 宵風と壬晴に謝れ」
 おかしい。
 食うのはどっちかというとオレなのに捕食者の眼をしている。
 

「もう1年位じゃないですか、先輩と2人きりになるの」
「仕方ねぇだろ宵風預かっちまったんだから」
 文句なら首領に言ってほしい。
 それにお前だってガキ連れてんじゃねぇか。
 オレに実力行使なんて筋違いもいいところだ。


「だいたいここは甲賀とはいえ学校だぞ」
「彼らもこうして大人になっていくんです。
 階段を上ってシンデレラになればいいじゃないですか」
 その彼ら(この場合は宵風と壬晴か?)も親(親じゃないけど)の情事を見て大人になるな
 んてまっぴらごめんだろう。
 しかも男同志ときた。
「ただのトラウマだろ」



 はん。



 馬鹿にしていますと強調するように溜息をついて見せた。
 たく、こいつだけは…。
「子供にはお優しいんですね、雪見先輩」
「常識だよ、雷光くん」
 負けてる。
 なんかオレが悪いことしたみたいになってんじゃねぇか、どうゆうことだ。


「…先輩」
「わかってるよ」
 誰かが来た。
 殺気だ。
 

 雷光は音を立てぬようベッドに戻る。
 当たり前だが息を殺して。
 一方俺は叫びだしそうになる手前で堪えていた。


 切り替えろ。
 敵はすぐそこだ。
 さぁ、隠の世が始まる。


 唇に残る記憶なんて忘れろ。


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