=例え今日が終着駅でも= 「世界は滅亡するかもしれません」 あぁ、始まったよまた。 雷光の繰り出す話題はいつも唐突だ。 話すらも突然始まる。 急に訪ねてきたかと思えば宵風が居ないのをいいことにソファで寝たきり。 声をかけてもうんとかすんとかしか言わないし、こっちは締め切り間際の仕事がたまり にたまっている。 だから構わずにいたらこれだ。 「いとも簡単に、さぞやあっけなく、この日は終わってしまう。 そんな可能性があるわけです」 「…要約すると?」 「貴方はそうやってすぐに答えを求めたがる。 勉強のできない子供の製造方法、それまるきりですね」 あー、ムカつく。 相手にすればこうだ。 「森羅万象。 これが存在する限り世界最後の日は今日である可能性が強まるわけです」 意外と仕事の話だった。 「今日が最後の日だってか?」 そんなことを起こすほど壬晴の精神が不安定とは思わないがな。 「可能性を示唆したまでです」 「つまり、今日死んでも悔いがないように生きるべきですよね」 「誕生日にそんなこと考えんなよ」 「え?」 何に驚く。 オレが誕生日を忘れている前提だったのだろうか。 お生憎さまだな。 実はそろそろだとしか覚えてなかったけどお前が訪ねてきたから確信したんだ。 「お前分刀の仕事忙しかったんだってな。 それなのにどっか行っちまったってテンパくん困ってたぜ」 ケーキがとか祝いたいとかそれはもううるさかった。 それと同じくらい疲れていた。 あの雷光が大好きなガキがだ。 それだけ大変な仕事だったのは想像にたやすい。 「ここに居るのは黙っといたけど良かったよな」 「えぇ、まぁ」 まだ動揺しているのか返事が曖昧だ。 呂律も怪しい。 ほれ見たことか。 「俄雨に聞いたんですか?」 「誕生日は覚えていた。 この答えで満足か?」 「疑うに決まってるじゃないですか」 力なく笑うさまに腹がたつ。 「病気のようにメモを壁一面に張っているような残念な記憶力の先輩がそんな些細なこと 覚えているはずがないでしょう?」 オレはお前の誕生日も覚えられないほど薄情な人間だと思っているのか。 あぁ、そうさ、覚えてたさ。 どうすれば自然に祝えるか考えてた。 なのに満身創痍でわざわざここに来やがった。 「寝ろ」 「え?」 「お前は寝ろ」 疲れさせるために祝いたいわけじゃない。 「寝込み、襲わないでくださいね」 くだらないことを言って、すぐに寝息が聞こえ始めた。 やっぱり眠たかったんじゃねぇか。 地球最後の日だ? 今日が最後かもしれないって? そんなの命のやり取りばっかりしているオレ達にとってあまりに今さらじゃないか。 ただ、もしもそんな日があるのならお前に眠れるような安らかな場所を。 年上のエゴだって笑えばいい。 「おめでとう」 返事はない。 <<