=I want to become...=


 ねぇ、先輩。
 若さと言うかけがえのないものに気付いてしまった僕はどうするべきなのでしょう。
 あー、こりゃ年だな、だなんて呟きながら目をこする貴方と私の関係性は大きくは変わ
 っていないというのにこんなにも離れてしまった気がする。 


 先輩と後輩。
 貴方は面倒見がよくて誰にでも優しくしてしまって苦労するそんな人。
 だからわがままを言ってしまうのです。


「私は表に職を持ちません」
「いいんじゃねぇの、忙しそうだしよ、分刀ってのは」
 あまり興味もないだろうに律儀に返してくれる貴方。
 ハンドルから手を離さずに、それでも返答が確かにあるのだと分かっているから私は言
 葉を発せられる。
 いえ、そうでもないんです、と。


「ねぇ、先輩。
 私は若さというかけがえないものを無駄にするようなことはしたくないんです」
 靄がかかっていた思考を言葉にしてみる。
 そして、気づいた。
「その発言が若さから程遠いけどな」



 私は貴方に心労を負わせたい。



「自分で言うのもなんですが見目麗しいと思うのです」
「まったくその通りだ」
 呆れたように言い放つ彼は急にブレーキを踏み道路の端に車を寄せ、ミラー越しに私を
 見つめる。
 確かに違いないよと言いながら。
「なので私はこの外見と溢れださんばかりの若さを利用して売春行為なんてものをしてみよ
 うかと思い立ったのですがどうでしょう」
 

 クラクションがなった。
 あまりの衝撃からか先輩がハンドルに突っ伏したからだ。
「先輩、五月蝿いです」
「お前のせいだろ…なに言ってやがんだよ、気は確かか」
「えぇ、おかげ様ではっきりきっかり覚醒中です」
 嫌みのつもりで耳を塞ぐふりをしてみるも、耳を閉じてしまったわけでもないのに声が
 聞こえない。


「ちなみに男性を相手にするつもりです」
 本日2度目のクラクションが鳴った。
 シートベルトを外して振り返ろうとしていた先輩がバランスを崩して肘からハンドルに
 あたったためだ。
 すぐに腕を上げた先輩はそのまま私を殴った。
 避けることも出来たはずなのに身体が動かなかった。


「それはなんだ、オレへの当てつけか?」
「自意識過剰ですよ」
 灰狼衆に入ってすぐ、きっかけは忘れたが自慰行為というものを行わない私に先輩は兄
 として実施で教えてくれた。
 面倒見がいい人なのだ。
 その後何度も貴方でないと感じないと駄々をこねては先輩を困らせた。
 きっとそのことを思い出しているのだろう。


 本当は違う。
 自慰行為が生きるために必要だと分かった上で断っていたのだ。
 人1人守れない自分が早死にするための布石。
 自殺なんてしないけど、長生きする気もない、それだけだった。


 エンジンがかかり、また車は走り出す。
「先輩が私を繋ぎとめれば話は変わるかもしれませんね」
「止めはしねぇよ」
 貴方は優しくて、厳しい。
 そしてやはり、甘い。
「ただ頼むだけだ、お前の人生を無駄にしてくれるなってな」
 ミラー越しに見る先輩の顔は諦めたような顔をして笑っていた。
 私がその言葉に従うと知っていて。
 困惑しているのはこちらの方だ。


「…痛むか」
「どうすれば良いのか分からなくなってきました」
「諦めろ。若いってのはそうゆうもんだ」
「さすが人生の先輩はおっしゃることが違いますね」
 7つ位で年寄り扱いかよと不満そうな先輩の声をBGMに景色は流れていく。


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