その感情、人染 久方ぶりに女王の街からの直射日光が差し込む。 お客が来た。 「ああ、伯爵と居た物騒な中国人か」 「それは随分と酷い言い様だね」 だって客になる資格をこの男は持っていない。 ご丁寧に言葉に出してあげる。 「小生は言ったはずだ、極上のあれでしか喜べないと」 それがどんなものであれ伯爵の知り合いだ。 おおよそ普段よりは親切に行動したつもりだ。 なのに何故だろう。 「そうだね、我にはキミに払う対価が無い」 男は想定内と言わんばかりに棺に座る。 「眩しいなぁ、閉めてくれるかい」 それ、と発光先の扉を指差す。 ついでに出て行ってくれないだろうか。 「これでもお客さんだよ? 客はもてなさなきゃ、これ基本だと思うんだけど」 「………」 行間は読めているようだ。 判っている癖に行動に移そうとしない男に苛立つ。 「わかってるよ、我が聞き逃げをすると思ってるんだろう。 違う、全然違うね、ありえない。 我がそんなことするわけじゃないか」 この顔を見てごらんよと胡散臭く笑って見せる様は嘘つきだと無言のうちに自主してい るようにしか見えない。 そして、わざと空気を読めないふりをするその男を撃退する方法を考え出した。 そんな小生の気分を推し量ることもなく男は続ける。 口が減らない男だと自分のことは棚の上にあげて思う。 「今日はもちろんキミに用事があって来たんだ。 アナグラで最近死亡者が急増しているのは知ってるね?」 「知ってるさ、もちろん。 内臓が破裂したようになっている話だろう?」 「へぇ、そうなんだ」 「………」 「…ん?どうかした?」 「小生はね、今しったかぶりという言葉が脳内に浮かんだよ」 「へぇ、どうでもいいね☆ ところでキミ、人間?」 少しおもしろかった。 「そうだよ、人間さ、これでもね」 なら良かったと言って笑う男は何を企んでいるのか。 何も考えていないという可能性も捨て切れない。 「対価に極上の快楽をあ・げ・る」 ウインクのつもりか片方の眼だけ固く閉じて見せた様に吐き気と言う言葉が浮かんだ。 <<