=白い箱庭=

 ここが地獄ならばなんて殺風景なところだろうか。  それとも、この飽きてしまいそうな空間に永遠に居ることが己へくだされた罰なのか。  死んだということに関しては何も疑問を抱いていなかった。  けれど、あまりにこの空間が非常識なので生きているのではないかと錯覚しそうになる。  音も色もない。  何も、無い。  ぼろぼろになったはずの肉体は何の問題もなく動く。  目だって見える。  親切に、誰か直してくれたのだろうか。  誰かいるのだろうか。 「おい」  突如、音が膨らんでこちらに向かってきた。  鼓膜が痺れて脳まで揺れているかのようだ。 「ロックオン」  聞きなれた声。  まさか。 「残念だったなアレルヤじゃなくて」  アレルヤのもう1つの人格を名乗る彼が立っていた。 「…死んだのか」 「いいや、あいつは死んでねぇよ」  アレルヤは無事だとして、会話からハレルヤは死んだのだと読み取れる。  うっすら笑顔さえ浮かべている男に戦慄した。  自分が死んだのに喜んでいるのだ。 「お前は死んだんだな」 「眠ってるだけだ」  いつだったか言ってたっけか。  ハレルヤは普段僕の頭の中で寝ているんです、と。 「ここは地獄かと思ったぜ」 「ちがいねぇよ」  きっとここは死後の世界だ。 「アレルヤ…来ねぇかな」 「来ないと良いな」 「そりゃそうだ」  投げだした足をぶらぶらさせて遠くを見つめた。  先にも何も見えない。 「あいつが言ってた。  お前は太陽みたいだって」 「そんな大層なもんになった覚えはないが」 「言ってたんだよ」  ずっと聞かされていた。  ハレルヤは語り出す。  真っ白な世界で1人だけ色彩を放ちながら。  こんな僕にも彼は笑ってくれるんだよ。  僕は彼の笑顔が好きでたまらないんだ。  彼は僕にとても優しくしてくれる。  まるで太陽みたいに僕を生かしてくれるんだ。 「オレがあいつを守ってやってたのに」 「そうだな」 「あいつはオレ以外にもいっぱい助けられるようになって」 「………」 「仲間だって嬉しそうに言うんだ」  あー、ばかばかしい。  なんでオレこんなこと言ってんだろ。  あまりに居心地がよくて、離れまいと話を続けている。  なのに自分の話で悲しくなってちゃ世話がねぇったらありゃしない。  ハレルヤはもう1度、笑った。 「頑張ってるよ、お前は」 「てめぇに何が分かるってんだよ」  ふわりと抱きしめられた身体は暖かくて。  ここが地獄ならなんと幸せなのだろうと。  悪いなアレルヤ。  もう少し、もう少しだけここに居させてくれ。  身を預けながらそっと瞼をおろした。  <<