=それでも潔く白く=
あの人も来たのか。 そういえば数年前にもこんなことがあった気がする。 両親と妹の墓に置かれた白い花束。 いくらそれが主流とはいえ全く同じチョイス。 納得がいった。 どおりで花屋のばあさんが不思議そうな顔でこちらを見ていたわけだ。 あいかわらず俺と兄さんの顔は似ているらしい。 そして数年ぶりに会った。 笑っちまいそうなくらい同じ顔をしていた。 俺も笑われそうなほど間抜けな顔をしているに違いない。 お互い知ってはいたのだ。 花束は同じ日に違う時間に置かれていく。 去年は俺が早かったし一昨年は兄さんが早かった。 生きてることは知っていた。 「あいかわらず俺に似て美人だな」 「よぉライル」 過剰なスキンシップをものともせずにニールは笑いかけてきた。 知ってるんだぜ、さっき木の陰にこそっと隠れたことくらい。 「何してんの?」 「何って命日だからな」 会話の内容を理解しながらもはぐらかすさまに腹が立った。 どうしてこうも無意味に大人ぶりやがる。 同じ年だというのに。 「仕事だよ、仕事。 …まぁ、聞くまでもないか」 手元を見ればわかる。 自分の職業と照らし合わせてみてば尚更だ。 また引き金を引いている。 まだやってる。 「このあと暇?」 ふと話したい気持ちになった。 そりゃそうか。 もう十年近くまともに会っていない。 「いや、明日には帰る」 なら今日中は大丈夫ってことだ。 「ふーん、っで何してんのさ」 わざと聞いてやった。 なんと嘘をつくのだろう。 「宇宙関係」 「広いなそりゃ」 「ライルは?」 「サービス業系」 苦虫をかみつぶすとはこのことだ。 今までの会話の中で一番困った顔をしてニールは呟いた。 「…似合わないな」 「そうか?これでも有名なんだぜ、俺の働きっぷり」 「成長したんだな」 「いやいや同じ年だろ。 っで兄さん、うち近いんだけど?」 嫌がってたのだと思う。 そんな死ぬほど散らかしてるわけじゃないからと無理やり引きずってきた時には既にぐっ たりとしていた。 「久々だろ、好奇の目線ってやつ」 同じ顔、喪服なんて大した違いはないから同じ姿が2つ。 目立つに決まってる。 昔なら可愛いですんだかもしれない。 けど大の大人に誰もそんなことを言ってくれるわけがなかった。 「でも俺は結構いつも通り」 「人気者なんだな、スクープになるぞ、影武者疑惑って」 「あいつらは泣いて喜ぶよ近親そ―ま、驚かれはするだろうな」 悪戯をしかけた時のような顔をするライルに嫌な予感はしていた。 言い訳をするようにニールは思う。 しかもそれは大抵当たる。 「まったくもって土砂降りだ」 「同感」 マンションのロビーに入って一息つく。 雨はますますひどくなった。 「シャワー浴びるだろ?」 「後で良い、先に入れよライル」 「いいや、客人優先だ」 ニールは少し考えたふりをしてうなずいた。 常識的なことを言った俺にさぞかし感動しているのだろう。 その兄貴面、今に崩れるさ。 確信していた。 「湯かげんどう?」 「あー、ちょうどだ。 って別にお前さんが炊いたわけでもないだろ」 「まったくだ」 話しかけるふりをしてバスルームに入った。 「どうよ、風呂に液晶」 「儲けてんだな」 「それなりにね」 再生ボタンを押す。 始まる。 「…何の冗談だ」 シャワーを止めてやっとニールが俺を見た。 さっきまで画面にくぎ付けだったのに。 「俺の職業、知りたいって言わなかった?」 「言ったさ、あぁ言った。けどなぁ―」 「驚いた?」 響く喘ぎ声。 映る快楽に溺れきった顔。 俺の出演作そのものだった。 「怒らないよね」 クレジットに切り替えた。 「ってか怒れないよね」 黙り込んだってことは相当腹は立っているだろうけど。 あんたが昔使ってた芸名の流用。 著作権の侵害って怒るのかな。 それとも職種? チャンネルを変える。 ニールが映る。 自分もやってたくせに、AV男優。 近寄ればその分離れられて壁際に追い詰められたニール。 俺と言えば顔から笑みがはがれずにいる。 「ぬいてあげようか?それとも入れてほしい?」 少し芯を持ち始めたそれに触れると小さく声が漏れる。 「大丈夫だよ、俺リバだし」 「俺達兄弟だろ」 「それが俺を拒む理由だっていうのかよ」 他の男なら良いくせに。 「ほんと、俺…あんたのこと大嫌いだよ」 「残念だけど俺は好きだぜライル」 「そっか」 あームカつくな兄貴面しやがって。 「っで結局ニールは暗殺業してんだろ」 「わかってんだろ」 「見りゃわかるさ」 手が違う。 「かくまわない方が身のためだぜ?」 「よく言うよ」 所詮、俺達は似てるって知ってるくせに。 本当は困るくせに平気で触らせてくる指を反対に曲げたい衝動に駆られた。 人を殺すようには見えないその白い指を。 <<