=知能派かつ=
射撃訓練を終え、日に日に状態を取り戻しつつある肉体に少しの安堵をおぼえながら自 室へと帰ろうとしていた矢先、ロックオンとすれ違った。 やぁ、と小さく手をあげて挨拶をする。 返事が無いことに一抹の寂しさを感じつつ、まだこの環境に彼は慣れていないんだと自 分のために彼の弁護をし、すれ違おうとした時ギュッと腕を掴まれた。 「な、何?」 つい驚いてしまって言葉が途切れがちになる。 そう怯えんなよと言われたところでおかしな状況であることに気づく。 彼が楽しそうに笑っていた。 まるで友人に話しかけるように、楽しいことでもあったかのように。 「何か良いことでもあったの?」 「いつも通りさ」 「そっか」 気を許してくれたわけではないらしい。 また笑いあえる日が来ると良いのに。 ふと思ってしまったことに嫌気がさした。 彼は彼ではないのだ。 もうふっきれたと思っていたのに思わぬところで自己嫌悪と再会してしまった。 なんだかばつが悪くなってじゃぁ、と去ろうとする。 なのに掴まれた腕が動かない。 「ミッション、今日は無かったよな」 「あぁ、明後日まではここで待機なはずだね、確か」 なら都合がいいと、夜に自室に来るようにとだけ言ってロックオンはスッと角を曲がり、 居なくなった。 「部屋…?」 言われたことがいまいち理解できない。 夜に、ロックオンの部屋に、呼ばれた。 なぜ? ロックオンの意図することは分からない。 けれど、もしかしたら友達になれるかもしれないということは分かった。 「適当に座ってくれ」 妙に機嫌のよさそうなロックオンが椅子に座りながらベッドを指差す。 他に座れそうなところは床しかないし、別に男同志なんだからと掛け布団を畳んで、空 いた所に腰をおろした。 「ここで良いの、かな」 「あぁ、最上だ」 何が最上なのかは理解できなかったけどロックオンが良いと言ったからには良いのだろう。 観察するように視線を上下させている彼を不思議に思いながら数十秒、ただ見ていた。 「…ロックオン」 沈黙に耐えかねて彼の名前を呼んでみる。 「何か用でもあるのかな?」 「そんなもんだ」 言いながらもロックオンは動こうとしない。 「ロックオン」 あ、やっと立ち上がったと思ったらかしゃりと音がする。 音の方を見る。 腕に手錠がはめられていた。 「え、何」 「手錠」 満面の笑みを浮かべながら自分の腕にあいてる方の手錠をかけた彼は、そのまま僕の方 に体重をかけてきた。 いくら宇宙とはいえ仮重力もあるのだし、押されたら体制も崩れる。 腹筋に力を込めてみても徐々に斜めになっていく風景に、既知感が湧く。 昔、僕とロックオンはこうして抱き合った。 「どうしちゃったんだい? これ、外してよ」 「そう言われて大人しく外すと思うか?」 「それは…」 行動に移した以上それには意味があってそうやすやすと変更できるものでもないだろう。 理解はする。 けれどこの状況に納得は出来ない。 「俺はそんなにニーさんに似てるのかね」 答えていいものか迷った。 彼はじっと目を見つめてくる。 「えぇ、まるで同じ人みたいに見える。 本当は別人だしやっぱり仕草とかも少しずつ違うのに、ね」 そうかと彼は笑ってゆっくりと近づいてくる。 僕の背はベッドに押し付けられていてこれ以上さがることはできない。 違う、でも似ている。 押しつけられた唇に、伏せられた睫毛に別人であることを教えられる。 「気はすみましたか」 「随分と手慣れているんだな。 ここは普通、怒るか喜ぶところだ」 その言葉にこそどうすればいいのかわからないよ。 思ったことを口にすることはなく、ただ態度で伝えようとした。 身体を押しのけようとすると手錠が彼の手首をいたずらにひっぱる。 「どけてください。貴方の手が傷つくだけです」 「なら抵抗しないことだな」 どこか気丈に言い放つ様に目まいがした。 「貴方の手ですよ」 「だから?」 「ロックオン、貴方は狙撃手だ」 続きを促すように彼は笑っている。 「俺の手が大事なら暴れてくれるなよアレルヤ」 <<