=邂逅= 「貴方はそうやって全員を試して回るつもりですか?」 音も立てずに現れた中性美人は表情も変えずに言った。 話すときはもう少し表情筋が動くものではないだろうか、だなんてわざと思考をずらす のは今は誰とも話したい気分であり、少し後ろめたいのも事実だったからだ。 なかなか悪人というものには簡単になれそうもない。 「なら次はお前さんか、ティエリア」 さらさらとした髪を触ってみたくなって腕を伸ばす。 その手はぴしゃりとはねのけられた。 「俺は彼で無くては意味が無い」 「愛されてるんだな、ニーさんは」 俺の居ない十数年、いったい彼は何をしていたのだろう。 ハーレムでも作ってたのか。 「次はアレルヤか?」 「順番的にはそうなるか」 気に障るのだ。 俺の後ろにニーさんの影を見ようとする視線が。 「やめておくべきだと忠告する」 「余計なお世話さ」 「俺は知っている。 ニール・ディランディとアレルヤ・ハプティズムの関係をな」 それはもう驚いていた。 そこから純粋にニーさんを好いていると考えるまで時間はかからなかった。 「恋人だったのか」 「それを知ってどうする」 「ごもっとも」 気になった。 アレルヤ・ハプティズムという人間が。 二ーさんとの時間を共有したであろうその男が。 「アレルーヤ」 そっと近づいて背後から抱きつく。 過剰なまでに反応してみせたアレルヤはひきつるような頬笑みを浮かべ、溜息を吐いた。 「アレルヤです」 「そうか、アレルーヤ」 2度同じことは言いたくないのか、ただ単に俺のことが嫌いなのか、食事を一気に吸引 してお先ですと一言だけ放ち、席を立つ。 「なぁアレルヤ」 「…言えるんじゃないか」 しまったとつい言いそうになる口を押さえて、笑って見せた。 アレルヤはこちらを見ようとしない。 「俺のこと嫌いか?」 「いえ、特に」 そっけない返答だ、実に愛想が無い。 他のクルーと話している時とは大違いだ。 くるくる表情を変えてよく困ったように笑う。 それは悪戯と構ってほしいという気持ちが半分ずつこもった行動なのだと理解しつつも 優しさや安らぎになれないといったような感情からくるものなのだと思う。 だからわざとおどけて見せるのににこりともしない。 「そんなにこの顔が好きか?」 「何を言ってるんですか」 特に驚くことも恥ずかしがることもなく心底呆れたというように吐かれる溜息。 面白くない。 「別に、嫌いじゃないですよ」 社交辞令のように付け足された言葉にとうとう俺の怒りは爆発した。 「ならなんで俺の前では笑わないんだ」 俺は怒っている。 理不尽に感じている。 ただ顔が同じというだけで比べられることに。 幼いころはよくあったがブランクが長かったせいか余計に腹が立つ。 「貴方が楽しそうじゃないから…かもしれないね」 「楽しいわけあるか。 戦争なんかしてよ、こうして急に宇宙に連れてこられたと思えばニーさんの代わりだ? うんざりだ、まったく。 ―何がおかしい」 こともあろうに今、アレルヤはくすくす笑い始めた。 人が激昂している様がそれほどまでにおかしいのか。 「いえね、貴方が初めて本音を言った気がしたから」 馬鹿にしてるんじゃないよと彼は続ける。 「やっと貴方が見えた」 「はじめまして、ロックオン」 差し出された手をただ見つめるだけだった。
天使のようなアレルヤにますます惚れるに違いない。 <<