=埋める。=
「ニーさんが…死んだ?」 突然俺のことを呼びだした青年の言葉に耳を疑うと同時に、情報に演技ではなく動じる ことのない自分にこそ驚いた。 生きてたのか。 死んだという言葉から逆に考える。 4年前まで生きていたのだと。 ソレスタルビーイングだと名乗った少年は情報端末を俺に渡して帰って行った。 本部には連絡済みだ。 車内で一息ついて、紫煙のように思考を漂わせることにした。 双子の兄であった、ニール・ディランディについて。 覚えているのは泣き顔だ。 もう十数年も前のことになる。 今日まで自分の原動力にしていたくせに、思い返すことが無かった。 いい機会だ、もう少し感傷に浸ろう。 ニールが死んだのだから。 家族が3人、減った。 不慮の事故と言えばそうだし、災害と言っても大して違わないだろう。 運が悪かったのだ。 自爆テロだなんて自爆した本人たち以外には誰にも予測が出来ない。 明朗。 その言葉が似合う人間を俺は1人しか知らなかったし、今も知らない。 何が楽しいのか1日中笑顔で、同じ年の俺にすら優しかった。 まるで余裕を見せつけられているようで悔しくて、皮肉交じりにニーさんと呼ん でみたことがあった。 すると奴はどうだ、不思議そうに眉をしかめて同じ年だろと笑った。 皮肉とわかっている癖に兄貴面をしながら。 「嫌いだったんだな」 うん、と1人頷く。 記憶は幼いころで止まっている。 それに抗いたくて、別の道を歩いた。 今となっては1回り以上も違う子供と戦っていた。 「嫌いだった」 だから最後の最後に奴を傷つけた。 四字熟語にすると性的暴行でだ。 頭の隅にこびりついているすすり泣く声。 同じ顔なのに驚くほど不細工な歪んだ顔。 それを人質に、ニールから逃げるように離れた。 そのうちのたれ死んだのだろうと思い込んでいた。 「嫌い…だった」 ならこの涙は何だ。 狙撃手を名乗る俺の大事な武器である視界を何でこうも霞ませる。 「嫌いだ」 これは意地だ。 最後の砦だ。 「嫌いだ、ニール…お前なんか―」 テーブルに4つのグラスを置いた。 目下お気に入りのカクテルを注いでいく。 なんてことはない、家族を偲ぶのもたまには悪くないと思ったからだ。 両親、そして妹、それに自分の分。 「乾杯」 次に起きれば俺は― 「ロックオン・ストラトス」 俺はそう名乗る。 あいつの意思を継いだからだなんてそんな理由じゃない。 強いて言うのならばソレスタルビーイングを懐柔するためであり、あいつの存 在を消すためだった。
大嫌いで大好き。 <<