=崩壊=

「ここは戦場だから―」 「えぇ、わかってます」  戦場だと繰り返す優しい男の髪を抱きしめる。  轟々と燃え盛る炎を肉が焦げ付く嫌な臭い。  地獄のようだと称されるものしかないこの場所に僕は貴方と立っていた。  ソレスタルビーイングのガンダムマイスターではない。  実践訓練としてエージェントの真似をしていたのだった。  体術は心得ている。  当り前だ。  訓練生として一通り習う前から僕は知っていた。  僕が超兵だという事実を彼は知らない。  だからいつも褒めてくれるのだ。  凄いな、アレルヤ。  お前はまだ小さいのに。  その言葉が嬉しくて、腫れもの扱いされるのが嫌いで、僕は黙っていた。 「俺たちは戦争をしているんだ」  自分に言い聞かせるように、落ち着くようにとかけられる声はひどく震えている。  怖いんだ。  そんな彼を見下すことなんてできなかった。  僕は妙に落ち着いていて、むしろ楽しいと感じてしまっている。  おかしいのは僕だ。  何十人も殺した。  近距離戦担当の僕と援護射撃担当の彼。 「無理はするなよ、俺が狙い打つから」  無理をしているのはむしろ彼の方だった。  いつものように明るく笑えていない。 「お願いしますね」  そう言って、戦場に身を投げた。   違う。  駆け寄った。 「お疲れ」  もう生きてるのは僕と彼とまだ死んでいない死にぞこないだけの世界。  死と生の間に投げだした身体はどくどくと鼓動が高鳴ったままだ。 「ねぇロックオン」  声が上ずる。 「貴方のココ、勃起している」  ロックオンは笑いだした。  やっといつもの彼らしい笑い方に戻った。  おかしくて仕方ないのだろう。  腹を抱えて今にもうずくまりそうだ。 「生理現象だよ」  「男なのに?」 「血は出ねぇけどな」  彼も僕も年頃の男だ。  ばかばかしい話で気がまぎれる。 「ここは戦場だ」  ふと真剣な顔をした彼は言った。 「今はお前と俺しかいない」 「抱きたい、アレルヤ」  命の危険を感じると子孫を残そうとする。  急にひと肌が恋しくなる時がある。   人間はそうして遺伝子を残していくのだ。 「戦争だから」  彼は言い訳のようにこの背徳の行為を正当化する。 「好きです、ロックオン」 「俺もだよ」  こうでもしなければ自分が生きているかどうかさえ分からなくなる。  ストックホルム症候群だと彼は笑った。  せめて吊り橋理論であってほしいんですけどねと僕も笑う。  布を挟まない彼の身体は暖かくて、燃え盛る炎を冷たく感じてしまうほどだった。  例えそれがまやかしだとしても。 「ここは戦場だから―」 「えぇ、わかってます」  戦場だと繰り返す優しい男の髪を抱きしめる。  続きの言葉なんて聞きたくないから胸板に押し付ける。  轟々と燃え盛る炎を肉が焦げ付く嫌な臭い。  地獄のようだと称されるものしかないこの場所に僕は貴方と立っていた。
 愛してると言われたい。何もないところで  <<