「嘘だ!」 僕はそう叫んだあと咳込んだ。 もうずっと、悲鳴と嬌声を上げることにしかこの喉は使われていなかった。 落ち着いたところでもう一度言いなおす。 急に沸騰してしまった感情を抑えつけながら。 「…冗談でしょ?」と。 だって居た。 確かにこの目で見た。 ティエリアだって彼のことをロックオンと呼んでいたじゃないか。 また、感情が沸点に達しそうになる。 「悪質な冗談を言うほどに君のことを嫌っている訳ではない」 硬質に返されたその声に、少し悲しみが混じっている気がして、僕は話すことをやめた。 ティエリアの手元の動きがいっきに変わる。 「到着だ」 プトレマイオスではないそこが、僕たちの帰る場所らしい。 ねぇ、ロックオン。 帰ってきたらゆっくり話をしようね。 来た路を振り返り、艦内に降り立った。 僕が居たはずの世界もやはり、変わっていた。 4年だ。 心なしか体中が痛い。 実験の繰り返しで様々な苦痛を味わったのに今さら痛いだなんて。 不思議だね、ハレルヤ。 返事は4年前からずっとない。 それでもロックオンが居て、ティエリアやフェルト、ラッセにイアンさん、スメラギさん が居て、刹那も今はミッションで地上にいるらしい。 スメラギさんの部屋に呼ばれて聞いたことだ。 ティエリアは僕をみんなのところに案内してそのまま姿を消してしまった。 きっとさっき話したことが彼に不快感を与えたんだと思う。 「あとで謝らなきゃ」 「何を?」 スメラギさんが笑った。 「ありがとう」 「何をですか?」 今度は僕が聞く番だ。 「帰ってきてくれてありがとう」 「すみません、ご迷惑をおかけして…それに身体も鈍ってしまいましたし―」 「違うの」 遮られた言葉に疑問を覚える。 「そこはすみませんじゃなくて、ありがとう、って言えば良いのよ」 「すみません、助けていただいてありがとうございました」 もぅと笑う彼女にも、ティエリアと似た影が混じっていた。 急にここが自分の部屋だと言われてなじめる人間はいないと思う。 前と作りは似ているけれどやはり違う僕の部屋。 僕のベッドに転がって考えてみた。 これからどうやって身体の調子を整えるか。 健康状態のままで実験をしたかったらしいので衰えてはいないはずだけど、だからと言っ て今、キュリオスに乗れるかと言われればそれは無理だと言わざる終えない。 もっとも、キュリオスは破壊されて、研究、分解されてしまい、もう無いのだけれど。 思ってみると失ったものは多すぎた。 僕には何もないとあの頃は思っていたのに、4年前の僕の世界はどれだけ広かったか。 人に恵まれ、場所に恵まれていた。 ハレルヤだって。 それでも今なお変わらずにいる人たちが居る。 もちろん変化はしていたけれど本質は変わってないと思いたい。 出来ることならロックオンも…。 そう、ロックオンだ。 ティエリアが言っていた「死んだ」とはどういうことなのだろう。 スメラギさんによるとあと5時間ほどで帰ってくる予定らしい。 本人に直接聞けばいい…よね。 それにもう1つ。 人伝には聞けないこともある。 なんだか疲れた。 久しぶりの感覚だ。 次に起きればロックオンに会えるだろうし帰ってくるにはまだ時間がある。 疲弊してた心ごと、眠りの世界へといざなわれるように僕は目を閉じた。
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